12月28日ディスクジョッキーの日
「それではここで聞いていただきましょう。デロウズの『土曜日の天使』」
ああ、これ。久々に聞きたいと思っていた僕はにやけてしまう。なんとタイミング良く聞かせてくれるものなのか。このDJのラジオを久しぶりに聞いたけれど相変わらず僕と好みが似ているなと勝手に親近感を持っている。
同時に、僕と好みが似ていると言うことは、だ。
「ここは切ないソングが聞きたかったなぁ」
隣に座る妻が軽くふてくされるようにして口をとがらせている。
僕の曲の好みと彼女の好みは全く違う。ラジオから曲が流れると、いつもどちらか一方が喜んでいたりするのだった。今のように、僕が喜び、彼女が悔しがる。
「あ、これこれ、この曲好き」
僕の好きな曲が終わると、今度は彼女が好きだという最近流行の曲が流れた。このDJは大体いつもこうだ。懐かしい曲と流行の曲を交互に流したり、雰囲気の違う曲、明るい曲と静かな曲など、性格の違う曲を交互に聞かせてくれるのだ。だから、僕が喜んだあとにはほとんど彼女が喜ぶので僕は安心する。
曲を聞いた妻は喜び、軽く口ずさんで見せた。僕はこんな風に嬉しそうに笑う彼女がいつも好きだった。「だった」、というのはこうして彼女と二人きりでドライブに行くことが実に20年近くぶりだからである。
「あっと言う間だね」
僕がそう言うと、彼女は驚いた様に僕を見る。
「あっと言う間、ではなかったかな」
「え、長く感じたってこと?」
時間を長く感じると言うのであれば、それはちょっと不安である。つ、つまらなかったとか。
「思い出すものが多過ぎるから、随分と長い時間が経ったんだなぁっていつも思うよ」
しみじみとそう言うと、今度は小さく笑った。
「あっと言う間にするにはもったいないよねぇ」
「そうか、そうだね。言われてみれば、もったいない」
赤信号で停車する。彼女を見ると、やっぱり嬉しそうに笑っていた。
日頃、正面から見る彼女の笑顔も好きだけれど、やっぱり横顔で見る笑顔も好きだなと改めて認識し、うっかり照れてしまった。
「照れてるの?」
いたずらに彼女が聞く。僕は前を見たまま、そんなことはないよと答える。彼女は僕の方を見ていたが、しばらくして前を向いた。
「いい20年だったよね」
「うん、いい20年だった」
26歳で結婚し、27歳で1人目、30歳で2人目、35歳に3人目と3人の子宝にめぐまれた。間もなく僕らは50歳になる。子供たちも手を離れ、こうして少しずつ2人の時間が出来るようになった。
「ありがとうね。あなたとだからこうして幸せな20年だったんだと思う」
「僕の方こそ、ありがとう」
僕がそう言うと、彼女は何かに気づいたらしく、小さく笑った。
「20年前も、こんな風にあなたと2人でデートしたのよね、さっきの曲は初めてのドライブでラジオから流れた曲だった」
僕は頷いた。そして覚えていることに少し驚き、嬉しく思う。
「同じDJさんが流した曲を20年経った今日、また私達で聞いたりして。私達の20年と同じようにこのDJさんも20年をすごしたのかしら」
「そう考えるとすごいね。色んな人にずっと曲を紹介して」
僕が言うと、彼女は優しく微笑んだ。
「またこれからよろしくね」
チラリと横から見て、彼女が微笑んでいるのを確認する。
次には僕の大好きな曲が流れ、彼女の笑顔を見る。やっぱりこの笑顔がいつまでも好きなのだと知った。
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【今日の記念日】
12月28日ディスクジョッキーの日
ラジオDJ、パーソナリティーの事務所として、ディスクジョッキーの養成、番組製作などを手がけている株式会社サンディが制定。ディスクジョッキーの魅力、パーソナリティーの魅力を多くの人に伝えるのが目的。日付は日本で最初の本格的なディスクジョッキーとして活躍した糸居五郎氏の命日(1984年12月28日)から。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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