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2月11日初午いなりの日

 私の作るいなり寿司は小さめである。

 それは幼い頃、母が一度に様々な種類のいなり寿司を作ってくれ、どの味も食べられるようにとの配慮からである。兄がいなり寿司好きだったため、我が家の『祝飯』は決まっていなり寿司。その上普段も良く母が作ってくれていたので、いなり寿司を食べる機会はとても多かった。

 そのおかげで、結婚して出来た新たな「我が家」においてもいなり寿司はもはや定番となっていた。

「ああ、腹減った!」

「あーあ、腹へったったな!」

 公園遊びを終えた夫とそのまねをする娘が帰ってきた。

「もうお昼ご飯できるよ。リクエストのいなり寿司ね。梅とごまとわさび味」

 私が言うと、娘はぴくりと肩を反応させる。

「梅のおいなりさんだー!!」

 彼女の好物なのは知っていて、今日はいつもよりたくさん作ったのだ。

「よし、食べよう!」

 夫も嬉しそうに食卓についた。

 

「ごちそうさま!」

 食べ始めて早々に食事を終えたのは夫だった。

「どうしたの?全然食べていないでしょ」

「そうかな、いつもと一緒だよ」

 そう言うと食べ終えた食器を重ねて台所へ運んだ。

「ゆりちゃんはみっつ目食べるよー」

 娘は元気良く3つめのいなり寿司を食べ始めた。

 夫はどうしたのだろう。いつもこのサイズで5つは食べるはずだ。おなかが空いていればもっと食べることもある。

 そもそもいなり寿司を今日食べたいと言ったのは彼だ。ではなぜ・・・・・・。

 私はうっすらと理由を探し始める。

 彼は優しい。相手が悲しむことは決して言わない、しない。けれどそれは裏を返すと、悲しませないかわりに優しい嘘を付くのではないか。

 つまり、私の作ったいなりずしが。

「美味しくなかったの?」

 急に聞いたせいか彼は驚いていた。

「正直に言ってね。今まで我慢していたの?本当はいなり寿司嫌いだった?」

「大好きだよ、なんでそんなこと言うの」

 彼は嘘を付いていないような顔で私に言う。

「だって、3つしか食べていないじゃない」

「ああ、ごめんごめん。ちょっと願掛けです」

 そう言うと彼はくしゃりと笑う。

「今日は初午の日でね。一年でもっとも運気が高まる日なんだって。その日にいなり寿司を食べると縁起がいいらしい」

「だからって、何で3つしか」

「いなり寿司の『い』は命が延びる、『な』は名を成す。『り』は利益を上げる。だから3つ食べるといいんだって」

 そう言って彼は私のお腹を撫でる。その手はとても優しく、温かい。

「今年、この子が生まれてくるから、僕は一家の大黒柱としてもっとしっかりしたいなと思って、願掛けしてみたんだ」

 ねー、っとお腹に同意を求めるように首を傾げて見せた。それを見ていた娘も、ねーっと言い、思わず私も笑った。

「ゆりちゃんも3つだよ」

「ね、ママも3つ」

 娘を抱きしめ、彼の手を握る。

「3人でそれぞれ3つ食べたよ。願掛けも3倍だね。きっとこの子も楽しみにしてるよ」

 私がそう言うと、夫は私達を抱きしめた。

「早く産まれておいで」

 うちのいなり寿司は小さめである。けれど、かなり大きな願いがこもった祝飯。その機会はこれからもっと増えていく。私はそれが幸せでたまらないのだ。

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【今日の記念日】
2月11日 初午いなりの日

一般社団法人全日本いなり寿司協会が制定。初午とは2月最初の午の日のことで、稲荷神社では五穀豊穣を願う祭りが行われる。初午は運気が高まる日とされ、稲荷神社のお使いであるキツネの好物の油揚げを使った「いなり寿司」を食べると福を招くという。このいなり寿司のことを「初午いなり」と呼ぶことを知ってもらうのが目的。日付は初午となる日に近い国民の祝日の「建国記念の日」と同じ日に。 尚、日本記念日協会では初午の日にいなり寿司を三つ食べることを提唱している。「いなり」のそれぞれの文字から「い=命が延びる・な=名を成す・り=利益を上げる」の願いが叶う縁起物なので。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



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