9月22日 ラブラブサンドの日
「面白いじゃない」
社会人になりたての娘にそう言われたのは、ついつい電話でグチっていたときだった。内容は主に夫のグチ。
「えーそうかなぁ」
私はそう言って熱いコーヒーをすすり、昨日夫が買ってきてくれたミルクコーヒー味のパンを一口食べた。
久々に夕飯にカレーを食べたいねと言って、彼が仕事帰りに買ってきたのはカレーパンだった。それはもう良い買い物をしたというホクホクとした表情である。
そうじゃないのだ、夫よ。私は夕飯をお願いしたのであって、明日のパンをお願いしたわけではない。私が何故カレーパンなのかと彼に問うと、揚げたてだったからとやはり満面の笑みで言う。
またある日にはビーフシチューでも食べようかと、これまた仕事帰りに『ビーフシチュー用の一口肉を買ってきて』とお願いすると、一口大にカットされた鶏もも肉を買ってきてくださった。安かったからこれで良いと思ったそうで、夕飯はバターチキンカレーと相成りました。
「お父さん、可愛らしいじゃない」
ふふふ、と電話口で笑い声を聞かせる娘には楽しく聞こえるようだが、一時が万事こんな感じであるため、私は結構ため息が出る。それでも彼は職場ではどうやら上の方の役職らしいので、果たして私の伝え方が悪いのかと泣けてくるのだ。
「良い歳をしたおじさんの可愛いって言うのは可愛くないわよ」
「前からちょっと抜けてるなぁってところはあるけど、最近特に面白くなっているね。あ、じゃあ逆に、コレ買ってきてって言ってドンピシャで買ってくることあるの」
いたずらに娘は言うが、記憶をたどってみてももしかしたら数少ないかも知れない。くずきりをお願いすれば糸こんにゃくだし、ほうれん草をお願いすれば大体は小松菜だ。エビを頼んでカニを買ってきたときにはどうしたものかと途方に暮れた。
「あ」
そう言えば、コレ買ってきてって言わなくてもドンピシャで買ってきてくれるものが一つだけあった。
「なになに」
「ラブラブサンド」
そう、夫はこれだけは私の意を外すことなく買ってきてくれるのだ。
「それって家によくあったよね」
「うん、私が好きなパンね。焼いたりジャムやバターを塗ったりしなくてもさっと食べられるから常備してるの」
私が言うと、娘が何か思い出したような声を出す。
「康也がお昼ご飯台を浮かせようとしょっちゅう持って行ってた」
康也は長男であり彼女の弟、現在大学生。
「そうそれ。私がね、甘いものが食べたいってちらっと言ったことを覚えてくれているみたいで、そう言うときはお願いしなくてもこのシリーズの甘いのを買ってきてくれるんだよね。そう言えばこれ、昔からそうかも」
思い返せば付き合いたての頃、彼がこのパンを持っていることが多く、よく分けてもらって食べていたのだ。その時も、別に伝えていないのに私の食べたい味であることが良くあった。
「お母さん、人ってね、他がどんなに違っていても、たった一つがぴたりと合えばそれだけで全部賄えるような愛情になることもあるんだってさ」
「それって、私とお父さんの場合は・・・・・・パンが愛情ってこと」
私がそう言うと、娘が笑う。
「そう、ラブラブサンドだけにね」
もういいぜ!
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【今日の記念日】
9月22日 ラブラブサンドの日
しっとりとした2枚の耳なし食パンでさまざまな具材をサンドし、一袋に2個入った人気商品の「ラブラブサンド」。その美味しさをより多くの人に知ってもらいたいと、北海道札幌市に本社を置き、パンや菓子の製造販売などを手がける日糧製パン株式会社が制定。日付は22日を「夫婦」と読む語呂合わせから、夫婦で「ラブラブサンド」をプレゼントして日頃の感謝の気持ちを表すとともに、ラブラブなカップルには「ラブラブサンド」を仲良く分け合い、将来夫婦になってほしいとの願いを込めて毎月22日とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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