見出し画像

7月16日 虹の日

    やっぱりね、と彩は言った。

 何がやっぱりなのかと聞いてみると、どこか得意げな顔をして答える。

「ザーッと雨が降っているのに空が明るいからおかしいなと思ったの」  
    私にはすべて分かっていたとでも言う、まるで探偵のような口振りに思わず笑った。

 彼女の言うとおり、妙な天気が続いていた。それもそのはずで、今は梅雨時期なのだ。雨が降ったり止んだり、ザーッと降ったかと思えばもう晴れていたり。まさに今日の空がそれである。10分ほど前には大雨だと思うほどに降っていたのに、それが今では晴れている。こういう時の晴れはとても綺麗な晴れであることを私も、そして彼女も知っているのだ。

 雨に濡れた草木たちが、雨露をその葉に残したまま、突如現れた太陽の光に照らされてきらきらと光って見える。近づいてよく見てみれば、その雨露の中には虹が見えたりして。思わず振り返って空を見上げてみると、偶然、とてもとても大きな虹が出ているのだ。

「あ、ママ、ほら。あそこの空に虹が架かった」

 彩に言われたままその方を見ると、確かに大きな虹が架かっている。

「今日は私にとって良い日になるね」

 彼女は嬉しそうに満面の笑みでランドセルを背負った。


『彩(あや)』と言う名前は、彼女がお腹の中にいるときに私が候補に出した名前である。冬も夜、産婦人科へ通院する時に暗い道を歩いていると、ふと頭に浮かんだのだった。私は『彩り』を願ったのかもしれない。

 そんなことを夫に言うと、彼も何となく気に入ってくれたようで、お腹の中にいるときから私と夫は『彩』ちゃんと呼んでいた。

 様々な色で溢れた彩り豊かな人生を歩んでほしい。そんな願いを込めて、正式に彼女の名前を彩とした。

 おかげさまで彼女は7歳になり、今春から小学生にもなった。今のところすくすくと健やかに成長してくれている。その名前の通り彩り豊かに毎日を過ごしてくれているように思う。


 そんな今では大きくなった彼女が5歳くらいの頃だろうか。保育園のイベントで使うものの中に『自分の名前の意味を知ろう』と言うものがあり、保護者がそのプリントに名前の由来を書いた。

「ねぇ、私の名前の意味ってなに?」

「『彩』って名前には彩り豊かな人生、毎日を過ごしてほしいって願いを込めたんだよ」

 布団の中で彼女はふーんといって聞いていた。

「彩りってなに?」

「いろんな色ってことかなぁ。だから何だか虹みたいだね」

 私は思いつきでそう言ったのだが、彼女にはそれがぴたりとハマってしまったようで、自分の名前には虹があると思うようになった。

 それはもちろん7歳になった今でもそう。

「きれいな虹が出ると私、幸せな気分になるんだよねぇ。みんなは雨が嫌いっていうけど、虹を持ってきてくれるから私は雨も大好き」

 そんなことを言っては虹の出た空を見上げるのだ。私は早く学校に行きなさいと急かしているが、顔は笑ってしまう。

 私も虹が好き。あなたのことを思うから、私は虹が好き。そして虹が好きな人はたくさんいる。きっと皆、その『彩り』が好きなのだ。そう思うと、私もやっぱり幸せな気分になる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】

7月16日 虹の日

7と16で「ナナイロ=七色」と読む語呂合わせと、梅雨明けのこの時期には空に大きな虹が出ることが多いことから、この日を人と人、人と自然などが、七色の虹のように結びつく日にしようとデザイナーの山内康弘氏が制定。先輩世代が後輩世代をサポートする日にとの意味合いもあり、音楽を中心としたイベントなども展開する。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?