3月4日スカーフの日
久々に実家に帰省する途中、通りがけにあった100円ショップでそれを見つけた。
思わず手に取り、レジに向かう。あの頃とは消費税が変わっているから支払った金額は違うけれど、税抜100円は変わらなかった。私は嬉しくなり、レジでタグをとってもらいさっそくハンドバッグに結んでみた。
母が持っていたものと同じ柄のスカーフで、私が昔母にあげたものだった。
母は昔からスカーフを好んで身につける人だった。首に巻いたり、時には髪の毛にリボンのようにくくってみたり、大判のスカーフならば肩に掛けたりと、それは様々に形を変えた。
私の中で、母はいつも優雅にスカーフをなびかせていた。
中でも気に入って頻繁に登場するスカーフがあった。金色で縁取られていて、紺や金、ところどころで赤色の何かしらが描かれている。大人になった今だから分かるが、あれは多分いわゆる高級ブランドのスカーフだったのだと思う。上品な柄で、それを身に着けている母もキレイに見えた。
けれどある時からパタリとそれを見なくなった。聞けば洗濯したら風邪で飛ばされてしまったと言う。
「仕方がないわね」
困ったように笑う母が切なかった。
当時私は小学4年生で、幼心にも胸が苦しくなったのを覚えている。
すると、見つけたのだ。母のスカーフが売っている店。そこはスーパーの催事場でたまたま来ていた100円均一のお店だった。今でこそ当たり前のように100円ショップがあるが、当時はそんなに身近にあるわけではなく、私も初めて見るほどだった。
お小遣いをもらったばかりでお菓子を買おうとふらりと寄ったのだが、それを見つけた私は大興奮である。
母のスカーフがあった!それも自分のお小遣いで買える!喜びと誇らしさでいっぱいだった。大人になった今、同じ状況だとしてそれを買うかと言われると、きっと買わないだろう。でも、そのときは最善の選択だった。
お菓子を買うこともせず、胸いっぱいに誇りを持って母にそれを持ち帰った。母もまた、大喜びでそれを受け取ってくれたのだった。
「と、言うことで買ってしまったのよね」
実家に着いて腰を落ち着け、母に話をした。母も覚えているようで、そうだったわね、懐かしいと言ってくれた。
「ちょっと待っててね」
母はそう言うと玄関横にある母の部屋に入って行った。
今日のスカーフは大判のようで、母はそれをひざ掛けのように使っていた。とても綺麗な優しい黄色で、まもなく春を思わせる。
「ほら、これでしょう」
母が自分の部屋から持ってきたのは件のスカーフだった。今日自分で買ったものと比べると、いくらか色が薄くなっているが、柄や大きさはほとんど同じである。まさしく私が昔母にあげたそれだった。
「まだ持っていてくれたんだ」
「うん、嬉しかったもの。よく使っていたから生地が弱ってきちゃって、こうして大事にしまっているのよ」
母はにっこりと笑ってくれた。
今も昔もどちらも自分で買ったものだけど、身につけたり大事にしまってくれていることで、母と私はずっと身近にいるような気にさせる。
母はそれをひらりと返し、首元に巻く。
そこには私の好きな変わらない母がいた。
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【今日の記念日】
3月4日 スカーフの日
日本スカーフ協会が制定。おしゃれなファッションアイテムとして人気のスカーフの魅力をさらに多くの人に知ってもらうのが目的。日付は古くからヨーロッパではカトリックのミサの際に女性が三角形や四角形のベールを頭から被るのが礼儀とされ、ベールを忘れないように首に巻いたのがスカーフの始まりと言われていることから三角形と四角形の3と4で3月4日とした。また、春先にスカーフを巻く人が多いこともその由来のひとつ。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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