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8月1日 カフェオーレの日
やっぱりこの人が好きだなぁと一番強く実感したのは、皮肉にも振られたその瞬間であり、誕生日の前日であった。
と、そう思ったのは現在朝の四時、振られた翌日のことである。昨日はやけ酒ならぬ、やけ寝だとばかりに仕事から帰宅して21時過ぎにはもう眠ったのだった。そのせいか、こんな時間に目が覚めては眠れなくなった。日曜日で良かったのだろうか、次に眠る時間までが死ぬほど長く感じられそうである。
彼とは同期で入社した現在の会社で出会った。当時私にはつきあっている人がいて(半年で別れたけれど)、彼のことは特別意識したことはなかったのだ。けれど仕事でチームが一緒になり協力して課題をこなし、一緒にいる時間が増えていくことと連動するようにして私は彼を次第に意識するようになる。何かきっかけがあったわけでもないが、そんな小さな意識が積み重なるとだんだんとそれは重みを増していく。
私の話を最後まで聞いてくれる、とか誰にでも丁寧な挨拶をしている、とか取引先から彼へのお礼を言付かることが重なったとか、仕事に対するアイディアが私の持つそれを越えている、とか、小さな意識となるものは一緒に仕事をする日常のどこにでも存在した。だからその意識が経ることはなく毎日増える。
小さな意識はやがて大きな気持ちになった。
気付けば30歳が迫っていた。結婚を意識する年には十分であり、私はいつしか彼に気持ちを伝える準備をちゃくちゃくと整えていた。
そうして昨日、30歳の誕生日前日に彼に気持ちを伝えたのだった。
もう重要プレゼン並に緊張しており自分が何を言ったのかも覚えていないのだが、彼は終始真剣な顔で、時に優しく微笑んではいつものように丁寧に私の話を聞いてくれた。正直、私はそれだけでも胸一杯だった。
そうして彼は私にちゃんと返事をくれた。
「ありがとう。けれど気持ちに応えることはできない。高瀬が僕を想ってくれているように、僕も好きな人がいる」
なんてバカ正直に返事をくれる人だろうと思った。思わずまた好きになってしまったではないか。私はそう思って笑い、彼がいつもそうするように丁寧にありがとうと言った。彼はそれ以上何も言わなかった。私も他には何も伝えなかった。
それで良かったと思っている。
別れ際に彼が、明日はお誕生日おめでとうと言ってくれたことには少し涙したけれど、なんともすがすがしく振られたのであった。
おかげで彼を嫌いになることも出来ずに、けれど振られた以上諦めないなんてことも出来ず、私は宙ぶらりんのままでいる。そうしてふわんふわんと揺れたままで昨日は眠りについて、今この状態だ。曖昧な私。
私は布団の中がもどかしく、台所に向かった。冷蔵庫の扉を開けるとそこにはいつか買っていたカフェオーレが入っていた。私はそれを手に取り、ストローを刺して一口飲む。乾いていた喉や胸に程良く甘い柔らかな味が染み渡る。
瞬間、私はこのままで良いのだと思った。別に好きにも嫌いにもならなくていい(······好きだけど)、どちらかに決める必要もない。そう気づき、うっかり鼻歌を歌ってしまった。
♪白黒つけないカフェオーレ♪
適度な甘味は私を癒す。
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【今日の記念日】
8月1日 カフェオーレの日
丁寧に焙煎された香り高いコーヒーと、まろやかな風味のミルクの割合が50対50のバランスで作られている「白黒つけないカフェオーレ」のCMで人気の「カフェオーレ」を製造販売する江崎グリコ株式会社が制定。日付は6月1日が国際連合食糧農業機関(FAO)が制定した「世界牛乳の日」であり、10月1日が社団法人全日本コーヒー協会が制定した「コーヒーの日」であることから、その真ん中の日とした。また、八と一が製品の容器の形状に似ていることもその由来のひとつ。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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