10月20日シチューライスの日
外は雨が降っていて、10月の19時は既に暗い。まだ秋のはずなのに、指先がジンとしびれるように冷えている。
こんなに寒い日は……と、頭の中に材料を浮かべながら香菜はエレベーターを待っていた。
今日は仕事の途中からホワイトシチューにしようと決めていた。毎年このくらいの季節から、香菜はシチューが食べたくなる。今日はかぼちゃを入れてホクホクにするのもいい。
一方の夫、航大はカレー派である。辛口のチキンカレーが好きなのだ。最近作っていないので、カレーがいい!と言われることは予想できる。
カレールーもシチュールーもどちらも家にある。材料も同じであり、カレーにすることは容易だ。だがしかし、今日はどうにもホワイトシチューを食べたいと香菜は思ってしまった。譲ることは出来そうにない。
よし、と覚悟を決めてホワイトシチューを作り始めた。途中、ふわりと香るほのかに甘いミルクの香りが鼻をくすぐり、作ってよかったと彼女に思わせる。その香りが玄関まで流れ着く頃、彼が帰宅した。
「ただいま!」
「おかえりーっ!!今日は寒いからね、あったかーいシチューだよ」
語尾にハートマークを感じられるよう努めて明るく。けれどそれにはなにも答えずにただいまと言ったきり、黙々と手を洗い、彼は静かに台所に向かってくる。
「カレーが食べたい!」
あ、やっぱり。くつくつと鍋で具材が踊り、ふわりふわりとクリームが香るこの場でもやはりカレーか。
「そうだよね。でもごめんね、今日はどうしてもシチューの気分だったの!カレーは週末に作ろう」
我ながら柔和な説得である。彼は小さく頷いた。
「作ってくれたんだからもちろん喜んで食べる。だがしかし、言わせてくれ!」
そう言うとジャケットを脱ぎ、丁寧にラックに掛けるとまた台所に戻ってきた。
「今日は寒いから、熱々の辛ーいカレーで身体の中から温めたい!だからカレーだったらいいなぁっと思っていたんだよ」
ぶつけるようにして私に訴えかける。
ので、応戦することにした。
「シチューも温かいよ。辛さじゃなくて優しい甘さで身体の中から温めて、かつ癒してくれる」
私が応戦すると思わなかったのか、一瞬怯んだのち、また続けた。今度はカレーの美味しさについて。もちろんこちらも応えて差し上げる。すると、ぐっと歯を食いしばり、右へ左へと視線をさ迷わせたのち、周囲を気にしながら彼の唇が私の耳元に近づく。
「大きな声じゃ言えないけど」
この話の中でそんな機密情報があるのか。
「カレーはライスにかけられる。だが、シチューはライスにかけられない」
なんとも残念そうな顔でそんなことを言うものだから、私はもう、彼から離れて食器棚から皿を出す。何も答えず、黙ってそれを用意した。
「どうぞ、シチューライスでございます」
サラダもスープもよそわずに、それだけを彼に差し出した。黙って食べてみなさい、だ!騙されたみたいな顔をして彼はご飯とシチューを半々にスプーンに取り、勢いよく口に入れた。もぐ、と味わっただろう瞬間に驚いた顔で私を見たので、ここぞとばかりにドヤ顔を決めた。
「常識を疑え!ってね」
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【今日の記念日】
10月20日 シチューライスの日
さまざまな食品の製造加工ならびに販売などを手がけるハウス食品株式会社が制定。「カレーライス」「ハヤシライス」に次いで、シチューをごはんにかける「シチューライス」という食べ方を提案し、新しいカテゴリの食品として多くの方においしく味わっていただくことが目的。日付は「5(ごはん)×(かける)4(シチュー)=20」と読む語呂合わせから毎月20日としたもの。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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