6月9日 まがたまの日
久々に来たその公園はやっぱり人がいなかった。だから、声が響く。
「あたし嫌よ!」
そう言うと首を横に振って渡した招待状をつき返してきた。
「そんなこと言わないで、来てよ」
「嫌よ、結婚するなんて」
響く声は懐かしく、内容関係なく、私は少し胸が熱くなる。
彼はヒロくんと言う私の幼馴染であり親友であり、ゲイである。
小さな頃に暮らしていたマンションの隣の部屋同士。同じ年齢で同じ幼稚園、小学校、中学校と進み、ずっと一緒に家族ぐるみで過ごしてきた。高校からは離れたが、それでも数日に一度は顔を合わせていたのでやっぱり家族に近い。ちなみにもう一つ隣に棲むユウと言う親友もいるが、これはまた別の話。
つまり、だから、私は家族同然の彼に結婚報告をして、それを彼は嫌だと言っているわけだ。
そんなに私が結婚することが嫌なのか。今までのように遊べない、会えないとでも思っているのか。
「大丈夫だよ。旦那さんになる人にはヒロくんのこともちゃんと話してあるし、理解してくれているから今までと同じように······」
「あなたが奥さんになるなんて不安で仕方ない」
え、そっち?
「結婚なんてしたら四六時中一緒ってことでしょう」
「まぁ、お互い仕事行くから四六時中ってこともないけとね。職場違うし」
キーコキーコとブランコの錆びた音が夜に響く。それもまた懐かしい。
「喧嘩したらどうすんのよ。嫌よ、私。また夜中に連絡来てこの公園で一晩中話を聞くとか」
「それ、前の彼氏の時ね」
「急に呼び出されたと思ったらカラオケのフリータイムをフルで歌うとか」
それは前の前、かな。
「ボウリングを10ゲームやり倒すとか!」
「それはヒロくんが彼と、別れた時でしょ」
私が突っ込むと、彼は少し考えて、前の前の彼氏のときだったわと笑った。
「どうだってなんだっていいけど、結婚となったらそんな風に現実逃避なんて出来ないよ、きっと」
そう言われればそうかも知れない。きっと逃げたり避けたりして解決するわけじゃないから、ちゃんと話し合いをしなくてはならない。
「あなたが上手に結婚生活ができるとは思えない。本当に結婚するの?」
ヒロくんはいつにもまして、どこか心配そうな顔をする。
そうだ、私は彼のこの優しさに何度も救われてきた。包み込んでくれるような彼の暖かさ。それは兄のような優しさだった。
その優しさがあって、私は成長したのだ。
「ありがとう、ヒロくん。大丈夫だよ。上手くできないかもしれないけど、それは彼もわかってくれている」
私は笑ってみるが、少しだけ泣いた。
ヒロくんも優しく笑ってくれた。
「分かった。あたしも応援するわ」
そう言うと小さな包みをくれた。開けると可愛らしい勾玉があった。
「あたしからの結婚祝いよ。先週、出雲に行って買ってきたの。あたしだと思ってお守りにして」
きれいな丸いフォルムのそれに街灯の光があたり、ぼんやりと光って見える。不思議と温かく感じた。
「きれい。ありがとう」
「大丈夫、あなたはその実とても器用で優しいから。上手くいくとは思えないなんて嘘よ」
今度旦那さんに会わせてねと笑い、私達は二人揃ってブランコを降りた。
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【今日の記念日】
6月9日 まがたまの日
古くから健康を守り、魔除けとなり、幸運を招くとされる勾玉(まがたま)。その出雲型勾玉を皇室や出雲大社に献上している島根県松江市に本拠を置く株式会社めのやが制定。日付は数字の6と9の形がまがたまの形と似ていることから、この二つの数字を組み合わせた6月9日と9月6日を「まがたまの日」とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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