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2月10日豚丼の日

「ブイヤベースだったよ。すごく時間をかけて煮込んでくれたみたいでお魚が美味しかったの」

 お母さんがお料理教室に行っているという莉子ちゃんが言う。隣の風花ちゃんも夕飯を話し始める。

「いいなぁ、私のうちはビーフシチューだったよ。でもお肉が柔らかくて美味しかったなぁ」

 ああ、ビーフシチューなら分かる。

「で、遥ちゃんのおうちの昨日の夕飯は?」

 そう聞かれるよりも先に、私は昨日の夜を思い出す。


「ただいま!」

 ガチャガチャからバタバタと音を変化させながら帰ってきたのは母だった。

「お母さん、お帰りなさい!」

 私がそう言って玄関で出迎えると、母は何かを我慢したような顔をして、うんと頷くとすぐに洗面所に向かった。すごい勢いで、けれど丁寧に手や指を洗い、うがいをする。全て終えると、私の方に向き直り、我慢していたらしく私をぎゅっと抱きしめた。

「ただいま!遥がおうちで待っててくれると思うと私は頑張れるんだよ」

 もう一段ぎゅうっと抱きしめ、そしてそっと離れた。このとき、いつも幸せを感じる。私は自分の腕や肩、胸に残る母の温かさがじんわりと私の体にしみてくるように思えてその余韻が好きだった。

「うん、お仕事お疲れさま」

 私が言うと母はにこっと笑った。

「さ、ちゃちゃっとご飯作っちゃおうかな」

 そう言って腕まくりをする。

 私は母がそうするのを見て、なんとなしに聞いてみた。

「お母さんはさ、煮込み料理とか作らないの?」

 先の友人たちが日々、昨日は何を食べたとか何を作ってもらったと言うその中では煮込み料理が頻繁に出るのだった。一方のうちはどちらかと言うと煮込まない料理が多い気がする。

「煮込み料理?」

「うん、ほら豚の角煮とか、ビーフシチューとか」

 私が言うと、母は手を止め私の目の前にやって来た。

「食べたいの?」

「ううん、そうじゃなくて、えっと。お母さんはそう言うの好きかなって」

 私はどこか焦りながら答え、母は何か分かっているようだった。

「まぁ、好きだよ。遥が生まれるまでは時々作っていたかな」

 思い出すように言い、少し笑う。

「今は作らないの?」

「そうね、そう言う時間が掛かる料理は作らないかな」

 そうなのかと私が聞いていると、母は私をぎゅっと抱きしめた。

「コトコト時間の掛かる料理を作るより、さっと作って、残る時間で少しでも長く遥をぎゅーっとしたいと思ったんだよ」

 そう言って、ゆっくり私から離れると母は笑った。大好きと、耳元で言われた気がする。

「で、今日は何が食べたい?」

 母は私の頭を撫でて優しく聞く。私は少し考えていつもの好きなご飯を答えたのだ。


「豚丼!」

 勢い良く答えると、目の前にいた友人たちは驚いていた。

「昨日はソラチの豚丼だよ。豚肉にタレが絡んでそれがすっごく美味しかったなぁ」

 私は思い出しながら答える。風花ちゃんがポツリといいなぁと言った。

「で、たくさん食べてお母さんとお父さんといっぱい遊んだのが、うちの昨日の夕飯」

 ちょうどチャイムが鳴った。皆席に戻り、授業の支度を始める。私は相変わらず昨日の豚丼と母のその温もりを思い出していた。

 簡単で美味しいは愛情なのだと実感する。


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【今日の記念日】
2月10日 豚丼の日

北海道札幌市、芦別市を拠点に、豚丼や焼き肉、ジンギスカン、しゃぶしゃぶなどのたれ、ソース・ドレッシング等の製造・販売を行う株式会社ソラチが制定。株式会社ソラチは「北海道のたれ屋」として有名で、十勝名物の豚丼が全国的に知られる原動力のひとつになった企業。日付は2で「ぶた」10で「どん」と読む語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。


 

 

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