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5月17日 お茶漬けの日
「あぁ、もう夕飯はお茶漬けだけでいいわ」
昼食を満腹になるまで食べた母は、満足感たっぷりの笑顔でそう言った。
実際、そんな日の母の夕飯はやっぱり決まってお茶漬けにするのだった。有言実行が素晴らしい。
父は夕飯はしっかり食べたいと言ってきちんと一汁三菜を食べる人だった。私や兄も食べ盛りと言うこともあって、昼食にブッフェ形式でたらふく食べたのに、夕飯は別腹だとでも言うようにもりもり食べていた。
そして気づけば母は2杯目のお茶漬けを食べているのだった。
結婚して、とんと母の名台詞を聞く機会がなくなってしまった。特に近年は流行風邪の影響もあって県を越えて会いに行くのに気が引けてあまり会っていないので正直、寂しい。
夫は父によく似た人である。やっぱり彼も一汁三菜を好む人だった。ただし、その三菜部分は出来合いのものでも良いし、インスタントでも良いと言ってくれる人なので、随分と気は楽なものである。けれど気は楽にはなるが、「夕飯はお茶漬けで~」とまで言ってくれるわけではない。
たとえば、ブッフェやご当地フェスなどで昼食をお腹いっぱい食べた日には、私はどうにもお茶漬けを求めるのだが、彼はそうではない。
その瞬間、ちょっとやっぱり母が恋しい。
だから久々に母に会えた今日はとても嬉しい。
「あーお腹いっぱい!もう夕飯はお茶漬けでいい!」
「ふふ、その台詞久々に聞いた」
仕事の引継で県を越えて移動するようがあり、悩んだ末、引継終わりに少しだけ実家によることにしたのだった。おみやげのスイーツでお腹がいっぱいになってしまったのである。
「ほんと、随分会えていないからね」
「うん、今日だって急に来ちゃってごめんね」
私が申し訳なく思っていると、母は笑った。
「もう食べ盛りの子供でもない娘に大盛りご飯を出してしまうくらいは楽しみにしていたんだから気にしなさんな!」
そう言って、お茶をすすった。私も笑い、入れてくれたお茶を飲む。ノンカフェインのそれは生姜ゆず茶で、喉もお腹もぽかぽか温まる。
「お父さんは夕飯食べるんでしょ」
私が言うと母は少し考えて言う。
「うーん、そうね、今日はどこかで食べてきてもらおうかな」
「え、夕飯作らないの?お父さんはしっかり食べたい人でしょ?」
驚いて聞くと、母は優しく笑う。
「昔はあなたたちもいたから作っていたけれど、最近たまに作らないこともあるよ。だって、お父さん一人の為だけに作るのも大変じゃない」
確かに。私が納得しつつ頷いていると母は続けた。
「家で食べたいなら一緒にお茶漬け食べればいいのよ。あなたもそうよ。これからは自分を大切に考えなさい」
「自分を大切に・・・・・・」
「うん。彼を大事に思っているのは分かっているけど、これからは生まれてくる子供が一番になる。子供を守るのは親であるあなたなんだから、まずはあなたがしっかり自分を大切にすること」
どこか自然と体の力が抜けていく。
「お腹がいっぱいなら、夕飯はお茶漬け!それでいいのよ」
気楽にね、と母が言い、私はちょっとだけ泣いた。
もう、夕飯はお茶漬けがいい。
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【今日の記念日】
5月17日 お茶漬けの日
お茶の製法を発明し、煎茶の普及に貢献した永谷宗七郎氏の子孫にあたる永谷嘉男氏が創業した株式会社永谷園が制定。永谷園は1952年(昭和27年)に画期的なインスタントのお茶漬け商品「お茶づけ海苔」を発売し、お茶漬けをさらに身近な食べ物とした「味ひとすじ」の理念を持つ食品メーカー。「お茶づけ海苔」は2012年(平成24年)に発売60周年を迎えた。日付は永谷宗七郎氏の偉業をたたえ、その命日(1778年5月17日)に由来する。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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