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6月19日 ロマンスの日

『非日常』かどうかなんて人の感じ方次第かも知れないなと思う。
 私には、日常が『非日常』に思える。

 私と夫には子供が3人いて、彼らが幼い頃には毎日がしっちゃかめっちゃかだったのだ。大きくなればなったで、受験や就職でその非日常が何ヶ月も続くし、3人も入れば時間差や期間差で発生するので、結局長期間にわたってそれは続く。例えば私が独身であったなら、こんな日常は想像もできないだろう。

 つまり、やっぱり日常が非日常なのだった。

「お母さん、このキーボード『T』がないよ!」

「ええ、何言っているの。キーボードに穴あきがなければないなんてこと、それこそないでしょ」

 私は半ば呆れながら、彼の言うキーボードを確認するも、やはり穴あきがないのだから『T』がない訳がない。

「ほら、あるじゃん」

「ええー!俺が使っていた時はなかったんだよ」

 おかしいななどとつぶやきながら彼は再びPCに向き直った。

 私の頭の中にもやもやと何かが思い出される。

「あ」

 思い出した。

 そういえばあの時、夫の使ったキーボードにも『T』がなかったのだった。
「俺の使っていたキーボードに『T』がなくてさ、しばらく困って、店員を呼んで助けてもらった」

 息子と同じ台詞を言ったのは、まだ籍を入れる前、つまりまだ『彼氏』だった夫である。今からもう23年ほど前だろうか。懐かしい。私は思い出す。当時、彼はパソコン作業が苦手であり、家にもPCはなかったので調べ物など必要な時にはネットカフェなどに行き使用していたらしい。

 その時も調べ物をしていた。聞けば私にプロポーズをする計画を立てるのに、たとえばレストランやデートの場所を調べていたらしい。

 そこで使っていたキーボードになかったようだ。

 『T』が。

 そんなわけがないでしょう。

 私はそう思うが、そうは思わず、ない!と困ってしまう彼。私がそのネットカフェの話を聞いたのはプロポーズをしてくれた翌週くらいだったか、「実は・・・・・・」と言って教えてくれたのだ。

 もう、その瞬間、私は彼が愛しくて仕方がなかった。

 プロポーズを受けて良かった。

 この彼が私の夫になるのであれば私はもうきっと毎日がしあわせだろう。そう思えて仕方がなかった。

 思えば、その日から私の日常は『非日常』となったのかも知れない。

 あと4日で結婚23年、そのあと数年もすれば結婚して30年である。

 私は彼に手紙を書くことにした。

「秦、もう課題おわった?」

「うん、どうぞ」

 私はパソコンの前に座りwordを開く。文字を打ち始める。結婚23周年に向けた手紙を書こう。

 その中の文章には『T』を使わずに、例えば「こんなに長く一緒にいeくれe、ありがoう!」と言う感じ。

 そして『T』がなかったことを伝えるのだ。

 それはなんとおかしなロマンチックだろう。鮮明にあの時が思い出されるはず。

 私が懸命に、でも笑いながら文章を考えて打っていると、息子も呆れたように笑っていた。

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【今日の記念日】

6月19日 ロマンスの日

大切なパートナーとの仲ががいつまでも続くように、この日に非日常的な演出をしてふたりの関係にトキメキを蘇らせてもらおうと日本ロマンチスト協会が制定。「本当に大切な人と極上の一日を過ごす」ことを推奨している。ロマンチストの聖地、長崎県雲仙市愛野町で「ジャガチュー(ジャガイモ畑の中心でロマンスを叫ぶ)」などのイベントを行っている。日付は6と19で「ロマンティック」の語呂合わせなどから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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