12月6日手巻きロールケーキの日
「いらっしゃいませ~なにににましょう」
可愛らしいうちの店員さんが私を出迎えてくれた。
『なにににましょう』と言う彼女は3歳の私の娘。
「おすすめは何ですか?」
私はお客さんになりきって商品をのぞき込むと、彼女は両手に持つモノをおすすめしてくれた。右手には、フード付きパーカから抜き出したのであろうフード紐、左手には細く伸ばしたハンカチをくるみ、それをまたくるくるとくるんだ細長いもの。
「うなぎとロールケーキがおすすめです!」
最近、娘の陽和は食べ物やさんごっこに精を出している。朝起きてから幼稚園に行くまで、幼稚園から帰って夕ご飯までの間、彼女はずっと何かしらを作っては売っている。特にスイーツがお気に入りのようで、折り紙やティッシュ、ハンカチなどで自作しているのだ。ケーキ、ソフトクリーム、どらやき、チョコレートにキャンディー。どれも可愛らしく作られる。時々はうなぎなんかもあるけれど。
「うーん、今日はロールケーキをお願いします」
お昼ご飯を食べたあとでは、おままごとでもなかなかうなぎは選べなかった。
「ではロールケーキを作りますね」
すでに何重かに巻かれているハンカチを再度広げ、もう一度くるくるくるくると巻き始めた。すると少ししてその手が止まる。
「店員さん、どうしましたか」
私が尋ねると、陽和はハンカチを見てぽつりとつぶやいた。
「ロールケーキ、食べたいな」
そう言えば、ロールケーキは久しく食べていない。私はすこし考え、彼女に少々お待ちくださいと言って台所に向かった。
冷蔵庫を開けば、たまごも小麦粉も生クリームもある。ついでにグランマニエも。
「店員さーん」
私は陽和を呼び、一緒にロールケーキを作りませんかとお誘いする。
「ちょっとなら大丈夫です」
大人のどこの会話で吸収してしまったのか、そんな答えを口にしつつも、嬉しそうな顔を見せてくれた。一緒におままごとを片づけ、手を洗い、彼女には小さなエプロンをつけた。
「これ、ひよりのエピロン?」
彼女は自分の『エピロン』を喜び、腕まくりをして気合いを入れる。
「たくさん炒めましょう!」
炒めませんよと訂正しながら、卵を手渡してみる。コン、とボウルにぶつけて割る。最初は私と一緒に割ったが、最後の一個は彼女に割ってもらい、それは綺麗に割れたのだった。そこでもう満足したらしく、向こうで待っているねと言われてしまった。
やれやれと思いながら、久々のお菓子づくりを私も楽しんでおく。
こんな風に、いつの間にかそれぞれ別々に行動することが出来るようになったのだと感慨深い。でも、と途中で思い直す。
「店員さーん」
ロールケーキ作りも終盤にさしかかる頃、私はもう一度陽和を呼んだ。どうしましたかと出てきた陽和にお願いする。
「一緒にロールケーキ巻きませんか」
私がそう言うと、満面の笑みで頷いた。
くるくる、くるくる。しっとりとしたスポンジはたどたどしい陽和の小さな指で柔らかく巻かれ、その端からクリームがこぼれ出る。
「楽しいね」
彼女が微笑み、私も笑う。
優しいその手で巻かれたロールケーキは、柔らかくて少し温かい。
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【今日の記念日】
12月6日 手巻きロールケーキの日
ふんわり、しっとりの食感を壊さないようにやさしく手で巻き上げたロールケーキを全国のスーパーやコンビニなどで販売している株式会社モンテールが制定。「手巻きロールケーキ」の美味しさを多くの人に知ってもらうのが目的。日付は「手巻きロールケーキ」の断面が数字の6に見えることと、ロールケーキの「ロ」=「6」の語呂合わせから、毎月6日を記念日とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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