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6月13日 お父さんの日
ついぞ、パパと結婚するとは言われなかったなぁとふと思う。
先週、会社の後輩に第一子が出来たと聞いた。
うきうきと喜ぶ彼は、生まれてきた娘に『パパと結婚するの』なんて言われたらどうしようなどと、今から考えればまだまだ先の未来への期待を大きくさせていた。
ついでに私も考えてみたのだが、どうにも言われたことがないとの結果に終わり、イマココである。娘2人は11歳と7歳、今から言われるのは難しそうだ。
「秦くん、パパと友達になるよ!」
私はうっかり声に出していただろうか。3歳になる息子が胸を張って私に言った。最近は一緒に風呂に入っても自分でちゃんと洗えるようになってきて随分と成長が感じられるのだった。
「ありがとう、秦」
私は息子を抱きしめた。可愛い可愛い息子である。嫁にはなれないが友達にはなれると言ってくれる心優しき息子。父ちゃんもおまえが大好きだ!
だがしかし、父親のロマンと言うものがあってだな。
息子の優しさを喜びつつも、娘からのそのロマンとやらを感じてみたかったなぁと少しの寂しさを感じるのだった。
「パパ、秦、お風呂上がったならデザート食べよう」
そう言って妻が運んできたのは子供達の好きなさくらんぼだった。喜ぶ子供達と一緒にテレビを見ながら食べ始めた。こういうデザートは一瞬の隙になくなっているので怖い。せめて一つか二つは食べておきたい。
「あ!この女優さん、結婚したんだね」
テレビのニュース速報を見て妻が言う。
「この人自分のお父さんが好きって言ってる人だよね」
不思議そうな顔で長女が感想を述べた。
父親好きの女優が結婚。何となく、チャンスではないかと感じ、ここぞとばかりに私は聞いてみることにした。
「あ、花菜と由樹はさ、小さい頃とか『パパと結婚する!』みたいな台詞って言わなかったよね」
私は勇気を振りしぼって聞いてみた。
「えー、だってそれはねぇ」
長女の花菜は次女の由樹を見ながらもごもごと言う。すると由樹が続けた。
「だってさ、ママがうるさいんだもん。いっつもいっつもパパのこと大好き!とかさ」
「そうそう、昔からパパはママのだからねって言ってたし」
花菜が同意し、由樹と一緒に妻の顔を見る。妻は、しまった!と言う顔でさくらんぼを慌てて口に入れる。そのくせもごもごしつつも話し始めるのだった。
「しょうがないじゃない、大好きなんだから」
そう言って視線をさまよわせる。花菜も由樹も、やっぱりねと言う表情で顔を見合わせた。
「ほらね、だからさ、パパと結婚するなんて言いたくても言わなかったの、私たち」
花菜が言うと、うんうんと由樹が隣で頷いている。
そうか、パパが憧れた台詞は、リアル妻のバリケードの前で砕け散ったと言うことか。
残念ではある。残念ではあるが、なんだろう、これはこれで幸せだなと思ってしまった。
「あ!秦っ」
由樹が声を上げる。秦が最後の一つを口に入れたらしく、机の上のさくらんぼの皿は殻になった。
やっぱり今日も食べ損ねてしまったけれど、それで良い。
パパは胸いっぱいなのである。
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【今日の記念日】
6月13日 お父さんの日
毎日働いて一家の大黒柱として頑張っているお父さんに、月に1回、感謝の気持ちを表す日をと株式会社ヤクルト本社が制定。「人も地球も健康に」とコーポレートスローガンに掲げる同社の、お父さんが健康にとの願いが込められている。日付は13で「お父(10)さん(3)」の語呂合わせから毎月13日とした。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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