1月23日アガる日
「350円になります」
口に出して言いながら、成りませんけど、と心で思う。
ようやく慣れたコンビニのパートはなかなかに忙しく、あまりボーッと何かを考えている時間もない。けれど時々、お客さんが途切れて次のお客さんが来るまでの僅かな時間で頭の中を急ピッチで働かせることがある。今だ!とばかりにくだらないことがつらつらと頭の中を巡る。ものすごい勢いでボーッとするのだ。
お金をもらうためにパートをしているけれど、それはもちろん家計費に消えていく。私の時間はなんの為だろう。でもそんなことは夫も同じである。
世の中の働く人々は生活の為もあって仕事をしている人がきっと殆どだ。その仕事に楽しみや幸せがあれば万々歳だけれど、そう感じる人たちはきっとそうそういない。だから、私の時間が〜などと考えるのは、私に限ったことではなく、それはきっと悩みでもなんでもないのだ。
「下を向いてるけど……何か悩みごとでもあるの?」
「え、あ、すみません。いらっしゃいませ」
いつの間にいらしていたのか、お客さんがレジにいた。
見たことのない顔である。とてもキレイな女性だった。すらりと背が高く、長い髪は店の照明が当たってキラキラと輝いている。小さな顔とスタイルの良さからしてモデルさんかも知れない。それに、なんと言っても艶のある肌が綺麗だ。と、分析もそこそこにスキャナーを手に取るが、目の前には商品がない。
「まだお買い物していないわよ」
彼女はくすくすと笑い、売り場へ消えていく。私は恥ずかしくなり、また下を向く。
若そうな見た目だけれど、服装や表情から見る雰囲気は落ち着いていた。モデルは年齢不詳だなと、初めて見るモデルかどうかも分からない女性に夢中になる。
私も彼女くらいキレイで自信があれば、艶のある顔を上げてキラキラと輝いて見えるだろうか。下を向いた私はその顎の吹き出物に触れる。
「これくださいな」
「あ、はい」
またも慌てて顔を上げた。コンビニサイズの無添加化粧品を2本とスナック菓子が5本。彼女は財布を出すと、ぴったりの金額をトレイに出した。
「ありがとうございました」
私が軽く頭を下げると、トン、と音がした。落とした視線の先にはさっきスキャンした化粧品がある。
「これ、使ってみてください」
「え、でもこれ」
今しがた購入されたものですが。思いつつも言葉が出ない。
「下を向いていると、体の中の老廃物が溜まってしまうから。だからハイ、まず上向いて」
あっち向いてほいと指先を上に向け、私はまんまとその指先の通りに上を向く。
「こうして上を向いていれば脂肪も肉も老廃物も下に流れ落ちて顔にたまらないからスッキリする。そこに、この無添加の化粧品をつけておけばオッケーです」
顔を正面に戻すと、彼女は爽やかに笑っていた。気づかなかったけれど、彼女は多分すっぴんだ。
「素肌がキレイだと気分もアガるでしょ」
確かにそうかも。私はつぶやくように言った。
「あと、こんなサプライズがあったら、それもやっぱり気分がアガるでしょ」
そう言って楽しそうに笑うので、私もつられて笑った。
顔も気分も簡単にアガった。
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【今日の記念日】
1月23日 アガるの日
無添加化粧品を掲げる株式会社ファンケル化粧品が制定。女性のお肌も気分も「アガる日」になってもらうことが目的。日付は、肌や気分が「アガって」いくことを願い、1→2→3と数字が上がっていく1月23日に。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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