11月24日ブルボン·プチの日
春は、4歳上の姉である朱里をとても慕っている。物心が付いたときから、何をするにも朱里が一緒でないと怒って泣いた。大好きな姉と同じじゃなくては嫌だと怒る。それは姉が大好きだからなはずなのに、その姉が彼女を宥めても怒りは収まらなかった。
それでも最後には、朱里が春を宥めると、その顔は母や父に見せるそれの何倍も嬉しそうに笑っているのだった。春はおねぇちゃんが大好きね。そう言われる事が、春にとってはある種の褒め言葉だったのかもしれない。
そしてそれは概ね今も変わらない。
「私はチョコチップクッキー」
「春も!!」
二人はにこりと顔を合わせて微笑んだ。
年があければ朱里は小学5年生になり、春は小学生になる。あっという間のここまでだった。すこし切なさがこみ上げてくる両親の反面、春は嬉しくて待ちきれないようだ。
ランドセルの色も随分と早いうちから決めていた。姉と同じ深い赤色である。春のことだから、パステルカラーのピンクや紫を選ぶものと思っていたが、ここでも姉と一緒がいいのかとやはり両親は笑った。そして先日届いたランドセルを早速背負ってみると、不思議なもので、ちゃんとお姉さんの表情をしていた。朱里に、一緒だねと言われ満面の笑みである。
彼女が一緒だねと言ったのは、ランドセルの事だったのだが、春にしてみれば『一緒にお姉さん』になったねと言われたように聞こえたのだろう。すこし誇らしい笑顔がとても可愛い。
お姉ちゃんと一緒、はいつの間にか、一緒にお姉ちゃんになったのだった。
今日も朱里の隣に座り、朱里がそうするのと同じようにノートを開き、まるで勉強をするようにして春はお絵かきをしていた。
「おやつにしましょう」
母がそう言ってキッチンに向かう。春も朱里も喜びながら急いで机の上を片づける。
「あ!私、チョコチップクッキー」
「春も!」
母はいつものことに、はいはいと優しく言いながら収納棚からブルボンプチを取り出した。しかし、いくら探してもチョコチップクッキーは一袋しかなく、ほかには同じシリーズのフランスのバタークッキーだけだった。
「今日は残念だけれどチョコチップが一つしかないの」
母は申し訳なさそうにそう言い、どうしようかと姉妹に尋ねた。
「えー、チョコチップがいいなぁ」
朱里がそう言い、もちろん春も言うのだろうと思っていると、意外な答えが返ってきた。
「じゃあ、春がこっちのやつにする」
春はバタークッキーを手に取った。母も朱里もその様子に驚き思わず、何でチョコチップじゃないのかと尋ねた。
「お姉ちゃんそれ食べたいでしょ?春もおねえさんだから我慢できるの。それに、これもプチの仲間だからいいのー」
春のその顔は自信に満ちたお姉さんの顔だった。いつも譲ってくれる姉の真似をして自分もお姉さんになったのだろう。
すくすく成長するどころか、今、この瞬間急に成長したようだ。
朱里も素直に喜んで見せたので、それもまた春が喜んだ。
「春もおねえちゃんと一緒のお姉さんだもんね。だからこっちでいいの。フランス味のバタークッキー」
春の選んだフランス産、ではなくフランス味のバタークッキーはきっと他にない大人の味なのだと思う。
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【今日の記念日】
11月24日 ブルボン·プチの日
新潟県柏崎市に本社を置き、数多くの人気菓子を製造販売する株式会社ブルボンが制定。同社が1996年から販売する「プチシリーズ」は手軽に食べられる大きさのビスケットや米菓、スナック類など24種類。そのバラエティ豊かな品揃えと、色とりどりの細長いパッケージで人気の「プチシリーズ」をさらに多くの人に楽しんでもらうのが目的。日付は24種類にちなんで毎月24日に。同社は「ブルボン・プチの日」の愛称を「プチの日」としている。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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