1月14日褒め言葉カードの日
「あと10分でおしまいね」
私は畳んだ洗濯物をタンスにしまいながら、動画を見ている娘に言う。娘は視線こそ画面から離さないものの、私に向けてちゃんと返事をした。
「分かったー。あと10分で止めるね」
部屋を片づけ、夕飯の準備に取りかかる。娘が動画を見終われば明日の学校の準備をして、遊んでいたテーブルの上をかたづけてもらう。そうして整ったなら、お風呂に入る。その後には夕飯の時間があり、また片づけ、歯磨きをして眠る準備。平日の夕方は何かとずっと忙しい。
「あ、10分経ったよ」
私が彼女に言うと、即座に返事が来た。
「えーイヤだよ。もっと見る」
「あと10分って言ったでしょ。お約束したんだよね」
「でもイヤだ!」
こうなると娘の顔は鬼の顔マネでもしているかのように歪み、怒りさえ感じる。終わり、と言う私と、イヤだ!とごねる娘。同じ言葉の言い合いに発展するのであった。
「もういい!!」
ごねきった彼女はドスドスと足音を響かせながら2階に行ってしまった。
テーブルの上に残されたタブレットを見ると、ちゃんと動画を停止してたのだった。
気づかなかった。
彼女はちゃんと止めた上でもっと見たいと言っていたらしい。それでも確かにもう終わりにすると約束をした以上は終わりと言う選択で間違いはない。けれどそれでもまず、ちゃんと約束を守れたことを褒めてあげても良かった気がする。
私は点火したばかりの鍋の火を止め、濡れている手をタオルで拭き、ゆっくりと2階に向かった。寝室のドアが閉じられている。そっと開けると相変わらず眉間にしわを寄せたままで彼女は本を読んでいる。
「光」
「なに」
やっぱり私に視線を向けることなく返事をした。
私は彼女の目の前に座り、彼女の顔を見る。思いやりの心を持って、と自分に言い聞かせながら笑ってみせた。
「動画、ちゃんと止めていたんだね」
私が言うが、光は何も言わない。
「ママ、気づかなかった。動画は終わりだよって言うだけで、光が動画をちゃんと止めていたこと気づかなかったよ、ごめんね。偉かったね」
ページをめくる手が、止まった。
「もっと見たかったんだよね、分かるよ。でも約束の時間だから、我慢して止めたんだよね、すごいよ」
おずおずと読んでいる本をずらして光は顔を出した。私は偉いねと頭を撫でてみる。
「一緒にお風呂に入ろう。この間買った入浴剤、今日入れてみようか」
「イチゴミルクのやつ?」
小さな声で聞いてきた。私は笑ってうなずく。
「ママと一緒に入りたい」
「うん、一緒に入ろう」
私がそう言うと、彼女は本を閉じて抱きついてきた。
「動画、約束だから止めたけど本当はもっと見たかったの」
私の胸に顔を埋めて小さくつぶやいた。
「うん、ちゃんと止められて偉かったね。また寝る前に時間があったら少しだけ見よう」
すごい、偉い、そんなことを言いながら頭を撫でた。少し強引かも知れないなと思いつつもどこか私が嬉しくなった。
ダメだ、イヤだと言い合うよりも褒めてあげたほうがお互い気持ちが温かい。
褒めてあげる言葉をたくさん持とう。たくさん褒めて、たくさん幸せになるように。
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【今日の記念日】
1月14日 褒め言葉カードの日
一般社団法人日本褒め言葉カード協会が制定。家族や職場の仲間を褒めて感謝を伝える日にするのが目的。褒め言葉カードを普及させ、褒め言葉の大切さを理解してもらうことを目指す。日付は1と14を褒め言葉のひとつである「い(1)い(1)よ(4)」と読む語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
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