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薄い線が私をひとりじゃなくさせた日

ずっと、綴ってみたかったエッセイ。

私の心のノートとして、
時には 誰かへの息抜きや暇つぶしとして。


2022.10

薄くて細い線が現れた!

妊娠がわかった夜、
姉のような従姉Rに
誰よりも先に知らせた。
3歳上の彼女は、私たちいとこ5人のボスで
今では3児の母。肝っ玉母ちゃんだ。
驚き焦る私からの連絡を
「今やったんよ。おめでとう」
と喜んでくれた。

検査薬に薄っすら浮かぶ線しか見ていない私には
「母になる」「おめでたいこと」
という実感はゼロに近かったけれど。


とんちゃんは、その2時間後くらいに帰宅してくる。
「とんたに見えそうで見えんそうなところに置いとき」
と従姉Rに言われていたから、
彼が毎晩帰宅後に必ず使うティッシュの芯に
立てかけて帰りを待ってみた。


この子の父親になる人は“やばい男”だった⁉︎

自転車が停まる音がして私はドキドキ。
鍵が開いていつものように
タタタタっと駆け寄ってくるとんた。

いつも思うが、40代の男性には見えない。
ドアを開けてから軽やかで楽しげに近づいてくるさまは
見ていて面白い。うさぎさんみたい。

新聞社で働いていた私が知っている
“40代男性”とは、似ても似つかない。


案の定ティッシュを手に取り、
芯に入った検査薬に触った。
「あ、コレしたん?」
「うん」
一瞬でテーブルに置いて鼻をほじり始める。
何の興味も驚きもない。


………?……………?!

やばい男?
小慣れてる?
いろんな憶測が脳裏をよぎる。


妊娠発覚への動揺ととんたのとんでもない反応で
感情がいそがしく、
どんな会話をしたっけ…どんな気持ちで過ごしたっけ…

とにかく、とんたが“やばい男”かもしれないことを
心配したことだけ覚えている。


従姉RとのLINEを見返すと、
どうやらその出来事から3分ほど経ったころ。

とんちゃんは
「えーーー?なんかここ最近僕もお腹いたかってん〜」
と言ったらしい。

そして、またしばらくして
「えーーーー?!っち頭を抱えて騒ぎ出したんやけど」
とリアルタイムで記録されていた。


ほっ。


それはそれは喜んでくれた。
読んで字の如く、本当に頭を抱えて喜んでいた。
“やば“くて“うさぎみたいに軽やかで楽しげ”な
危なっかしい40代男性ではなかった!

ほっっっ。

授かったタイミングには意味がある!

結婚してからこの日まで
本当に本当にいろんなことがあった。

新婚夫妻らしい幸せやラブラブの積み重ね…
だけじゃない。

経験したくなかった出来事、
後悔が溢れ返ったこと、
何よりも人生で初めて自分を大嫌いになったこと。
その経験を機に選んだ
3ヶ月間の海外逃亡兼人生見直し旅も。笑
(この逃亡期間があって、いまの私があるのだ。)


この時の私ー。
新しいことに挑戦しようとするも、
実は1人ではできないという気づきを得て
迷い悩む日々を過ごして
終わりのないトンネルを走っているようだった。

明るいけど、暗い。
暗いけど、明るい。

支えてくれる人、一緒に笑ってくれる人はいるけれど
なんか、ひとり。そんな気持ちだった。

そのトンネル世界にいるときに、授かった。
お腹にタイガがやってきた。
(胎芽:妊娠8週ごろまで胎嚢の中にいる
赤ちゃんのことをそう呼ぶと知った)

母になれる実感は湧かないものの、
トイレをするときも歯を磨くときも
1人で悩むときもこっそり鼻くそをほじる時も
“もう、ひとりじゃなくていつもタイガが一緒にいる”
ということだけはわかった。
強くわかった。

トンネルから抜けたかもしれない。

タイガよ、ありがとう。
コレからよろしくね。


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