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ファンタジースプリングス アソーテッドクッキー/ラング・ド・シャ ミュージアム

ファンタジースプリングス アソーテッドクッキー

収集年:2024

購入場所:東京ディズニーシー

形:正方形型+長方形型

内容量:21個(9枚+12枚)

価格:2,300円(購入当時)

製造地:栃木

販売者:株式会社オリエンタルランド

特徴:東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」をモチーフにしたアソーテッドクッキーのコレクションである。缶には「アナとエルサ」「ピーターパン」「ラプンツェル」などのキャラクターが描かれ、ディズニー作品の豊かな自然の中で自由に過ごす姿が印象的である。缶の側面にも、ディズニーのプリンセスたちが登場し、細部にまでこだわりが見られる。内容は、チョコレートサンドクッキーと3種類のロールクッキーの計21個である。

「消えゆく春」

律子が一人暮らしを始めてから、もう二十年が経つ。夫を亡くし、子どもたちも独立し、いつの間にか彼女の周りから人々が去っていった。それでも、律子の生活は静かで穏やかだった。庭の手入れをし、近所の商店街をぶらりと歩く。家に戻ると古びたアルバムを眺め、昔の記憶に浸る。そんな日々の中で、孫の光太だけが彼女の心に新しい風を吹き込む存在だった。

光太は月に一度、律子の家を訪ねてくる。10歳の少年で、どこか夢見がちな瞳を持つ彼は、いつも何か特別なものを持って律子の家にやって来た。光太がいると、律子の静かな日常に小さな色彩が差し込まれ、彼女はその瞬間だけでも少し若返ったような気持ちになった。

ある春の日、光太が訪ねてきたとき、彼は珍しく興奮した様子で、鮮やかなデザインの缶を抱えていた。その缶にはディズニーのキャラクターたちが描かれており、缶の中には「ファンタジースプリングス アソーテッドクッキー」と書かれたお菓子が入っている。

「おばあちゃん、これ見て!ディズニーシーで買ったんだよ。『ファンタジースプリングス』っていう新しいエリアができて、そこですごく楽しかったんだ!」
光太は無邪気に笑い、缶の中からクッキーを一つ取り出して、律子に渡した。彼の顔は輝いていて、まるでその場に魔法がかかっているかのようだった。

律子は笑みを浮かべながらクッキーを手に取り、缶をそっと見つめた。その瞬間、彼女の中に懐かしい感覚がこみ上げてきた。若い頃の記憶が、ふわりと胸に蘇ったのだ。

若き日の記憶

律子がまだ十代だった頃、彼女には一人の恋人がいた。戦後の混乱が続く中、二人はひっそりと未来を語り合っていた。彼の名前は進。律子と進は、都会の喧騒から逃れ、時折山奥の静かな場所へと旅に出ることがあった。ある春の日、二人は緑に包まれた美しい草原に立ち、その場で誓いを交わした。

「また、春が来たらここで会おう。」

その言葉は、進が律子に残した唯一の約束だった。しかし、彼はその春が巡る前に遠くへ行ってしまった。進は戦争の傷を負い、帰ることなく命を落としたという知らせが届いた。彼の帰りを待ち続けた律子にとって、その草原は思い出の中でしか存在しない幻の場所となった。

夢の中の再会

その夜、律子は不思議な夢を見た。夢の中で、彼女は再び若き日の姿に戻り、あの草原を歩いていた。草の香り、風の冷たさ、すべてが鮮明に感じられた。目の前には、亡き恋人である進が立っていた。彼は何も言わず、ただ穏やかな表情で律子を見つめていた。

「また春が来たね」と律子は彼に言ったが、進は答えず、微笑んだまま手を差し出した。律子はその手を取り、二人で草原を歩き始めた。まるで時が止まったかのように、すべてが静かで平和な世界だった。

ふと後ろを振り返ると、そこには光太がいた。光太は夢の中にも現れ、律子の後を追って来ていた。彼もまた、この不思議な風景に魅了されているようだった。

「おばあちゃん、ここってどこなの?」
光太は不思議そうに周りを見回した。律子も答えることができなかった。この場所が夢の中なのか、それとも現実のどこかにあるのか、彼女にはわからなかった。

その瞬間、進の姿が薄れ始めた。律子は彼の手を強く握りしめたが、まるで風のように彼は消えてしまった。彼の姿が完全に見えなくなると、草原もまた徐々に霞み始め、律子は現実へと引き戻されていく感覚に襲われた。

目覚めと現実

律子が目を覚ましたのは、朝の光がやわらかに差し込む頃だった。窓辺に掛けられた薄いレースのカーテンがそよ風に揺れ、淡い春の日差しが彼女の顔に優しく触れる。しばらくベッドに横たわり、夢から覚めたばかりのぼんやりとした意識の中で、律子は先ほどの夢の断片を思い返していた。あの草原、穏やかに流れる風、そして、そこに佇む進の姿。そのすべてが夢であったことに、なぜか少しの寂しさを覚える。

律子はため息をつき、ベッドサイドの小さなテーブルに目をやった。そこには、孫の光太が先日くれた「ファンタジースプリングス アソーテッドクッキー」の缶が無造作に置かれている。ディズニーキャラクターが描かれた華やかなデザインの缶は、まるで夢の中のような異世界を思い起こさせる。律子はそっとその缶に手を伸ばし、しばらく缶のデザインを眺めていた。

ふたを開けると、色とりどりのクッキーが整然と並んでいる。彼女は一つを手に取り、口に運んだ。バターの香ばしい香りと甘さが広がり、ほんの少し心が温かくなる。だが、その温もりはすぐに消えてしまい、律子は再び夢のことを考えた。進の笑顔、優しく彼女を見つめる眼差し、それらはすべてあまりにも現実的で、彼が本当にそこにいたかのように感じさせた。

夢だったのか、それとも何かの兆しだったのか? 律子は答えが出ないまま、ふと窓の外に目をやった。春風に乗って、桜の花びらが静かに舞い降りている。あの草原の風景と重なるような景色に、一瞬だけ夢と現実が曖昧になる。

「進……」

律子は小さく彼の名をつぶやいた。もう何十年も前に別れた彼の名前が、再び彼女の口から発せられるとは思わなかった。心の奥底に沈んでいた記憶が、この夢を通して浮かび上がってきたのだろうか。

光太がこの缶をくれた時、「これ、ばあちゃんの好きそうなやつだよ」と無邪気に笑っていたのを思い出す。その笑顔は、かつての進の若い頃とどこか重なって見えた。もしかすると、光太にも見えない何かが彼を通じて進を近づけたのかもしれない、と律子はふと思った。

結末

律子は、窓の外をぼんやりと眺めながら、自分の人生を振り返っていた。進と過ごした短い時間、その後の孤独な日々、そして今、孫たちに囲まれながらも感じる時折の虚しさ。人生には不思議な瞬間がある。すべてが計算されたように偶然が重なり、まるで夢の中のような出来事が現実の隙間に入り込んでくる。

律子は静かに目を閉じた。再び夢の中に戻るような気がして、少し安らぎを感じる。進はあの草原で、あの優しい微笑みを浮かべながら、待っているのだろうか。彼女は今度こそ、もう一度会えるのかもしれないという淡い希望を抱いていた。

「また春が来るのね……」

律子はそうつぶやきながら、ふと缶の中の最後のクッキーを手に取った。ゆっくりとそれを口に運びながら、いつしか彼女の心は穏やかになっていた。春の風が吹き、桜の花びらが舞い上がる。その光景は、彼女にとってこの上なく美しいものだった。

だが、律子はもう一度あの夢の草原に戻れるだろうか。それは誰にもわからない。しかし、彼女の心の中では、進との再会はすでに始まっていたのかもしれない。そしてその再会が、現実と幻の境界をぼやかしながら、彼女をゆっくりと包み込んでいく。

律子は深く息をつき、再びベッドに横たわった。目を閉じ、夢の世界に向かうように、ゆっくりと意識が遠のいていく。現実と幻の狭間で、彼女は再び進に会える日を、静かに待ち続けていた。

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