秩父フロマージュラングドシャ/ラング・ド・シャ ミュージアム
秩父フロマージュラングドシャ
収集年:2024
購入場所:
形:正方形型
内容量:6個
価格:680円(購入当時)
製造地:
販売者:株式会社長登屋
特徴:このラングドシャは、埼玉県秩父市産の「ちちぶ山麓牛乳」を全重量の0.21%使用して作られている。濃厚なミルクの甘さにホワイトチョコレートとチーズの風味が絶妙に調和し、口の中で広がる独特の味わいを提供する。サクサクとした軽い食感のラングドシャが、この風味の豊かさを引き立て、相性の良さを実感できる一品である。焼菓子としての軽やかな食感と、深い味わいの組み合わせが特徴であり、食べる者に上質な時間をもたらす菓子である。
秩父の霧と少女の約束
秩父の山々は、いつも静かに霧を纏っていた。朝早くから夕暮れにかけて、霧は山の頂から谷底までゆっくりと流れ込み、辺り一帯を白い布で包み込むかのようだった。静寂の中、鳥のさえずりや木々のざわめきだけが響き、山村は幻想的な雰囲気に包まれていた。
サキはその山村に訪れることを決めたのは、思い出せない幼少期の記憶が原因だった。何かを追い求めるようにして、彼女はその古びた村へと足を向けた。村を囲む山々は、幼い頃の記憶の中にぼんやりと存在しているだけで、具体的な形や情景は思い出せない。ただ、一つだけ忘れられないのは、あの霧だった。秩父の山々に漂う霧が、何か特別なものを彼女に見せてくれた記憶がある。父と母と一緒に過ごした温かな時間の中に、その霧が映っていたような気がしてならないのだ。
サキは、まだ遠くに見える山々を見つめながら、心の中にぽっかりと空いた隙間を埋めるために、この地を訪れた。彼女は、高校生活の中でのストレスや、将来への不安に押しつぶされそうになっていた。都会の喧騒から離れ、どこか懐かしい場所で静かに心を癒したいという思いが強かった。
秩父の村に降り立ったサキは、そこに流れるゆっくりとした時間に戸惑った。舗装されていない道、古びた民家、石垣に覆われた小さな田畑。都会では決して見られない光景が広がっていた。村の空気はひんやりとしており、霧がどこか遠くから流れてくるような気配が常に感じられた。サキは背負ったリュックを少し背中に押し上げると、目的もなく村を歩き始めた。
「こんなところに来て、私は何を求めているんだろう…」
独り言のように呟くと、サキの胸にわずかな不安が広がる。両親は、彼女の突然の旅に心配していたが、サキ自身もその理由をはっきりとは説明できなかった。ただ、どうしてもこの場所に引き寄せられるような感覚があり、それが彼女の行動を駆り立てたのだ。
村の端にある石段を見つけると、サキはそこに向かって歩を進めた。その石段は、苔むしており、長い年月が過ぎたことを物語っていた。石段の上には小さな神社があり、鳥居がひっそりと立っている。その姿は、まるで時の流れに取り残されたかのようだった。
「ここだ…」
サキは足を止めて、神社の佇まいを見つめた。なぜかこの場所が自分にとって重要な場所だと感じたのだ。かつて家族と訪れた記憶があるのか、それともただの勘違いなのかはわからない。ただ、心の中で何かがざわついていた。
石段をゆっくりと登り、彼女は神社の前に立った。そこには風に揺れる古いお札や、木々に囲まれた静かな境内が広がっていた。そして、鳥居の脇には一人の老婆が立っていた。薄い霧の中に佇むその姿は、どこか非現実的で、サキの目に映った瞬間、彼女の心臓が少しだけ跳ねた。
老婆はゆっくりとサキに近づき、目を細めて微笑んだ。
「ようやく来たんだね。待っていたよ」
サキは驚きながらも、その言葉に引き寄せられるようにして老婆の前に立った。
「私を…待っていたんですか?」
「そうさ。霧が教えてくれたんだよ。この村に訪れる者がいることをね。そして、その者には叶えたい願いがあるはずだと」
老婆の声は静かで、しかし確信に満ちていた。サキはその言葉に少し戸惑いを覚えながらも、どこか懐かしい気持ちが心の奥底で湧き上がってきた。
「叶えたい願い…」
サキは思わず呟いたが、自分でもそれが何であるかははっきりとはわからなかった。だが、確かに心の中には何かがあるような気がした。ずっと忘れていた何かが、この村で蘇りつつあるのかもしれない。
老婆はサキの手を取ると、小さな袋を取り出し、その中から一枚の焼き菓子を取り出した。それは「秩父フロマージュラングドシャ」だった。秩父産のミルクとホワイトチョコレート、そしてチーズが絶妙に混ざり合った、サクサクとした軽い焼き菓子だ。サキはその焼き菓子を見つめ、ふと口の中に甘い香りが広がるような気がした。
「これは…?」
「このラングドシャを食べると、霧が夢を見せてくれるよ。あなたがずっと願っていたこと、心の奥にしまい込んでいたこと、それを叶えるためのひとときだ。霧が消えるまでの間、あなたの願いは現実のように感じられるだろう」
老婆の言葉に、サキはさらに困惑した。夢を見る?願いが叶う?そんなことが本当にあるのだろうか。しかし、どこかでその言葉を信じたくなるような気持ちもあった。都会で感じていた閉塞感や孤独、そして未来への不安が、ここでは少しだけ和らいでいるような気がした。
「どうぞ、食べてみなさい」
老婆はにっこりと微笑みながら、サキにラングドシャを差し出した。サキはためらいながらも、その焼き菓子を受け取り、ゆっくりと口に運んだ。焼き菓子はサクサクとした食感で、濃厚なミルクとチーズの風味が広がり、まるで一瞬にして現実から切り離されたような感覚に包まれた。
そしてその瞬間、サキの視界がゆっくりと変わり始めた。霧が彼女の周りに巻き上がり、どこからともなく懐かしい光景が浮かび上がる。
サキの視界に広がったのは、懐かしい光景だった。霧の中に浮かび上がったのは、かつての家。木製の古い柱や縁側、そして庭には母が育てた花々が揺れている。幼い頃のサキは、この庭でよく遊んだ。時折ふり返ると、両親が縁側から微笑んで見守っていた。その温かさが今でも胸に残っている。
目の前には、あの頃のままの家族がいる。サキは驚きと懐かしさが入り混じる中、彼らに向かって一歩踏み出そうとした。しかし、足が動かない。何かが彼女を引き止めているようだった。
「お母さん…お父さん…」
声をかけるが、両親は彼女に気づいていないかのように、ただ穏やかな笑顔で見つめ合っていた。幼い頃の自分、つまりもう一人のサキは無邪気に庭を駆け回り、笑い声を響かせている。サキはその光景を、まるで遠い夢を見ているかのように眺めていた。
彼女の胸には、次第に切なさが広がっていく。あの時の自分に戻りたい、両親ともう一度あの時間を過ごしたいという強い願いが、次第に膨らんでいく。しかし、それが叶わないことも、同時に彼女は理解していた。
「どうして…」
サキは、両親に向かって再び声をかけたが、霧が濃くなり、二人の姿が少しずつ霞んでいく。
「待って!行かないで!」
彼女は必死に手を伸ばしたが、届くことはなかった。次第に両親の姿も、幼い自分の姿も消え、霧だけが広がる静寂の中にサキは立ち尽くしていた。
「これが、私の夢だったんだ…」
その瞬間、彼女ははっきりと気づいた。ずっと心の奥にしまい込んでいた願い、それは再び両親と過ごせる日々を取り戻したいという思いだった。しかし、それが現実に戻ってくることはない。サキはその事実を受け入れながらも、胸に広がる寂しさを感じていた。
突然、霧の中からまたあの老婆の声が聞こえた。
「大切な人との時間は、もう戻らないものかもしれない。だけど、その記憶はあなたの心の中にずっと残っている。忘れない限り、それは消えない」
サキは声のする方を振り返ったが、そこには誰もいなかった。ただ、霧が少しずつ晴れていく中で、老婆の言葉だけが静かに響いていた。
霧が完全に消える頃、サキは元の神社の境内に戻っていた。すっかり現実の世界に戻った彼女の手には、もうラングドシャは残っていなかった。ただ、あの焼き菓子の甘さと共に、夢のような体験が胸の中に刻まれていた。
サキは深呼吸をし、少しだけ笑みを浮かべた。夢が叶わないことは悲しいが、その温かな記憶を大事に持ち続けることができる。それが彼女にとってのささやかな救いだったのかもしれない。
神社の鳥居をくぐり、彼女は再び石段を降り始めた。少しずつ霧が晴れていく山の風景が広がる中で、サキは思い出に別れを告げ、少し前向きな気持ちで山を下っていった。
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