ずる
小さな嘘は
ずっとつき続けられるものだろうか?
嘘をつくとき人は深く考えたりしない。
咄嗟に勝手に口から滑らかに出てくる。
出たらあとは紐付けしていけばいい。
都合の良い流れで話せばいいだけ。
後から、あれ?何て言ったっけ?くらいの程度。気づくと私はしょっちゅう嘘をついてる。
オッサンにも嘘をついた。
だって良く思われたいから。
バツイチは言えるけど、
子供がいることは隠したかった。
何でだろう?
娘だけは聖域で私の唯一のタカラモノだから?子供を巻き込みたくなかったからかな。
ちがうと思う、本音は。
ちいさな子どもがいるバツイチのオンナって
ほんとありがち、重いと思った。
淋しい体のシングルマザーに違いなかった。
いつかバレることだし
タカラモノを打ち明けるのは今はリスクがある。勇気もいる。
「アン」
「俺に会うまえに、聞く事はないの?」
PCメールにドキッとした。
心臓がバクバク鳴った。
オッサンは見据えている?
心をさっくり切るような投げかけをする人。
この人、私に聞いてほしいのかな?何かを。
何かありそうです。
でも言いません、今は。
みたいな、オッサンはズルいと思った。
オッサン、ズルいよ。
「聞くことはないよ。
何にもないけど、なんで?」
「そか。じゃあオッケー!」
「そか。」
オッサンはよくそう言った。
そして、半年後に
私たちらしく初対面を済ませた。
オッサンは名前をヒロと言った。
私はアン。
ヒロとアン。
公園の樹木にチョークで相合傘を描いてみた。
ヒロ&アン。
紅葉がよく似合う。しあわせな気持ち。
偽名でも幸せ。
やっと出逢えた。
そんな恥ずかしい気持ちをお互い感じてた。
空港から自宅へ戻ると
何通かPCにメールが届いてたんだっけ。
何通もあるから、よけいドキっとした。
カチッと開く。
件名なし。
書いてあったコトバ
「俺はズルい」
「気づかせてくれてありがとう」
俺はズルい?
違うんだよ!私がズルいんだよ!
叫びたかった。