空港
空港の記憶が切り刻まれてる。
確かに私たちはそこに行って
待ち合わせをしたり
別れたりした。
逢瀬の終盤、
飛び立つまえのひととき。
車の中で時間をつぶしてた。
窓を開けて何気ない会話をして
クスッと笑ったり。
これが
最後になるかもしれないとは
互いに口に出さないようにして。
つぎはいつ会えるだとか、
何処へ行こうか、とか。
そういった約束はぜったいしなかった。心を置いてそこを離れる感じ。
たったひとつ、搭乗口でこっそりさらりとキスを交わす。
手を離して
私は彼が見えなくなるまで、
何回もふりかえり、にっこり笑った。
彼は私の乗った飛行機が千歳の空からいなくなるまで
車の中でずっと見送っていた。
もう二度と逢えない。そう思った。
本当に
もう二度とあえなくなるような気がしたのは3月11日。
いつもの千歳の搭乗口に入って
サヨナラのセレモニーをした直後だった。凄く揺れた。
なんだか分からないが、
電子案内板とモニターが騒がしくなってた。おっさんはもういなかった。
ただ、ただ、私は電子掲示板を見つめた。当時の気持ちは薄っすらと覚えてる。飛行機が運行出来なくなった時、少しホッとした。
帰れなくてもいい、と。
もう、これで帰らなくていいんだ、と。むしろそう思った気がする。
東日本大震災が、それだった。
日本が止まった日、
私は千歳にとどまった。