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#24 おいおい、金取るのかよ。って思った話。

それは、私が二十代の頃のことです。
初めて社員として(契約社員でしたけどね…)就職した宝石店での出来事です。
長時間立ちっぱなし(しかもパンプス!)の仕事は人生初で、連日足の痛みに苦しんでおりました。
そんなある日、チーフ(当時40代後半の女性)がこう声を掛けてくれました。

「足、痛いでしょ?大丈夫?靴はね、今私が履いているような靴でもいいんだよ」

と言って、靴を見せてくれたんです。
それは黒のナースサンダルっぽいものでした。
私は思いました。

靴じゃないじゃん⁉️サンダルじゃん‼️

当時まだ若く、宝石店の店員という仕事にちょっとした憧れを持っていた私は、ストッキングの爪先が見えるそのサンダルを履くことに、生意気にも抵抗を覚えました。
宝石店という高級感溢れる職場に、爪先の空いたサンダル風の靴は、なんだか不釣り合いに感じたのです。
しかもなんかオバサンっぽいし…。
今なら全然、なんの抵抗もなく、余裕で履けます。てゆーか、履きます。
背に腹は代えられませんし、今はもうすっかり心身共にオバサンだし、体にムリをさせるよりは、多少ダサくても楽な方を優先します!
でも、当時の私は若かったんです!

『おしゃれは我慢なの‼️』

というピーコさんの言葉が頭を過るくらいには若かったんです……。
歳がバレますね。トホホ。
はい。
続けます。
そのサンダルに抵抗を覚えた私は、「そうなんですね」と当たり障りのない相づちを打ったのですが、そのチーフ、

「これね、すごく楽なの。新しいのあるから、ちょっと履いてみて?」

と言って、ロッカーから未使用のサンダルを持ってきて私に試着を勧め始めたのです。

これは…どうやって断れば…⁉️

年嵩のお姉さまのオススメを上手に断る処世術など、当時の私は当然持ち合わせておらず、

「はい、どうぞ」

と、目の前に置かれてしまえば、履かざるを得ませんでした。
さらに、

「どう?パンプスよりは楽でしょ?」

と、感想を求められれば、まあ、当たり前ですけど、パンプスよりは楽なので、「確かに楽ですね」と同意せざるを得ませんでした。なんだか押しの強い訪問販売にでくわしたかのような気分になっていると、

「それ、あげるわ」

と言うではありませんか!

いらないです!

心の中で私はそう叫びました。
だってオバサンっぽいし……などと正直に言えるはずもなく、

「あ、大丈夫です。その…自分で探しますから」

と、やんわり断ったのですが。

「いいのよ。また買えばいいんだし、どうぞ」

と更に勧められ、
いやいや。本当にいらんのよ、

「でも…本当に大丈夫です…」

と、更に断れば、

「足、痛いんでしょ⁉️」

ちょっとイラッとしたような口調で(古い記憶ですが、ちょっとビックリしたので覚えています)言われてしまい、

「…それは…まあ」

「それならどうぞ」

と、ごり押しされて、

(まあ、折角くれるって言ってくれてるんだし)

と、彼女の好意に甘えることにしました。
すると。

「それ、1600円ね」

は?
今、なんと?

「1600円だから。お金。持ち合わせなかったら、後でも良いわよ」

おいおい。金取るのかよ。

いや~…ね。
確かにね。
本来なら私から「いくらですか?」って聞くべきなんでしょうけど。

あげるって言ったじゃん!
しかも私、何回も「大丈夫です」って言ったよね⁉️
もしかして、OKの方の大丈夫だと思われちゃったのかな⁉️

頭の中を駆け巡るツッコミとは裏腹に、

「あ、はい」

と、素直にお金を支払う私。
押しの強い訪問販売じゃなかった。
押し売りだった…。
わざわざ私のためにくれようとしたのなら、多少強引でも、ありがたいなって思ったからもらうことにしたのに。
お金払うなら、自分で、もうちょっとサンダルっぽくないの探して買いたかったわー…。
まあ、勝手にもらえると思い込んでいた私が図々しかったってことですよね…。
でも、私だったらまず聞く。

「このサンダル、すごく楽だから、良かったら同じの買ってこようか?1600円なんだけど、どう?」

って。
あるいは、

「絶対にパンプスじゃなきゃダメってわけじゃないから、踵に紐があるタイプなら、ナースシューズみたいなのでも大丈夫だから」

って教えてあげる。
それでその後どうするかは本人に任せる。
親切の押し売りって、こーゆーのを言うんだなぁ…と、しみじみと思った、昔々のお話でございましたとさ。

まあ、とはいえ、当時のチーフと近い年齢になってきた昨今では、つい若い子に親切のつもりでごり押ししてしまう気持ちも分からなくはないんですけどね。
そんな時は、この出来事を思い出して、自分を戒めております。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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