背筋『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』の感想

ホラー小説の感想。ネタバレはあまりしないつもりで書く。最近流行りの色んなメディアを駆使したスタイリッシュホラー創作についていけてなくて、やっぱ文字だけの話が読んでて一番楽だと思う。疲れてるのもあるだろう。背筋さんの最初の作品『近畿地方のある場所について』が気に入っていたので、最近出版された表題の2作も読んだ。どちらもおもしろくて買ってよかった。

『穢れた聖地巡礼について』はベテランのホラーライターだけれども動画サービスやSNSの台頭で活躍の場が狭まってきていることに危機感を持つ小林、ビジネスと割り切ってホラー系YouTuberをやっている池田、実家が神社で霊がみえる系ライターの宝条というキャラが立った3名の人物をメインに話が進み、彼らの目的も「この辺りで有名な心霊スポットのネタをいくつか徹底調査したと称し、内容をちょっと盛って池田のファンブックとしてまとめ出版社に売り込もう」というわかりやすいものだ。視点の切り替わりや小話の挿入などで自明のことと思われた事柄の印象が徐々に不穏なものに変わってきたり、謎が深まったり、意外なことに気づいたり、あれ?この人ってもしかして……と最初の方に戻って読み返したくなる場面もあったり、続きがどんどん気になるような展開で飽きることなくあっという間に読み切った。心霊的な描写そのものも怖くてよかったけど、それぞれの人のやむを得ない事情が絡み合った結果なんかやり切れない、もうどうしようもないみたいなことになってしまっているのが後味スッキリしなくてホラー的には良いなぁと感じた。会話文多めでテンポの良さを重視してるのかと思う。

『口についてのアンケート』は、仲良し大学生グループが有名な心霊スポットに行って怖い目に遭うという定番ホラーの内容だが、出来事の表現の仕方がおもしろくて最後まで新鮮な気持ちで読めた。音声データの書き起こしという形式が明示されたうえで体験談が語られるので「ああ、その場にいた子たちがホラーライターの取材でも受けてるのかな。こういう形式のホラーも定番だよね」と思って読み始めるわけだが、読み手が徐々に違和感に襲われて不安になるように誘導するのがうまいなと感じた。最後まで読み切った時のうわーなんか知らんけどやられたなという読後感が良かったし、30ページ程度(追記…私はiPhoneのKindleアプリで読んだら全31ページと表示されていたのでこう書いたが、紙の本を買った人たちは60ページと言っている)と短いのでホラーが平気な人にはおすすめしたい。

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