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自由英作文教室(準備編)2

準備編の第2回。

まえがき

今回は大学教員が英語で書かれたパラグラフを見る時にどういう見方をしているかをお話ししておきます。

分析的評価法

英文を評価するときに使われるモデルは大別して2種類あります。「統合的評価法」と「分析的評価法」と呼ばれています。

ここでお話しするのは分析的評価法です。評価法では ESL Composition Profile  (Jacobs et al., 1981) というのが最も有名で、半世紀の歴史があります。

内容30点、構成20点、語彙20点、文法25点、表記・作法5点の5つの項目に100点満点を分けてあります。こういうふうに項目を分けて評価するのが分析的評価法です。

実際には各大学で抱えている学生の質が異なるので、項目を増やしたり減らしたり、配点を変えてみたりと、評価尺度を微調整します。

入学試験のように採点者が複数いるときは、採点者間で「辛すぎる/甘すぎる」といったブレが出ないようにする必要があります。そういう目的にはこの分析的採点法が向いています。

教育学界にはこの採点者間のブレをなくすことにとりわけ強い関心を持っている研究者がいます。このブレは採点の信頼性・公平性を下げる要因のひとつです。彼らはブレを測定するためのさまざまな実験を行って、きわめて有益な科学的検証をしてくれています。

たとえばある研究では、採点者を50人集めて、50人がかりで同じ答案群を採点しました。

その結果、

たとえ評価法のトレーニングを受けていない不慣れな採点者でも、同じ答案を30人が採点して、その平均をとると、採点結果はひとつの数値に収斂していき、十分に信頼でき、公平なものになる。

ということがわかっています。

30人でだいたいひとつの解に収斂していくのですが、採点者が40人でも、50人でも、30人の時と結果が変わらなかったので、30人で十分ということになりました。

しかし「1枚の答案を30人がかりで採点する」というのは実験としては可能でも、実際の大学入試ではさすがに現実的ではありません。

たとえば、東京のある国立大学には、英作文の答案の採点者となりうる英語母語話者やそれに準じる教員が40人ほどいます。その大学の入学試験で発生する答案は8,000枚です。その大学の採点日程は2.5日。打ち合わせ等を除いて実質20時間です。もし、この実験と同じやり方で採点したとすると、この大学では英作文の答案を1枚9秒で採点しなければならないことになります。もし問が2つあれば1問4.5秒です。物理的にありえません。

そこで、どこの大学でも限られた数の採点者と短い日程で、ある程度以上の信頼性と公平性を確保するための方策を確立する必要に迫られます。

現実には、

  • 事前に十分な採点者のトレーニングを行う。

  • 表現と内容というように項目別に配点する。

  • 2名で評価して平均した数値を得点とする。

これで、ほぼ満足できる結果が得られることがわかっています。(これで、さっきの大学では「1問あたり1分あまり」という現実的な採点時間になります。)

大学入試では高い採点信頼性が必要になります。そのための堅実な方策は、さまざまな制約から必然的にある一定の「型」に寄り添うことになります。

ここでは、その「型」を専門知識のない人にもわかるように(少し単純化して)お示ししておこうと思います。

たとえ一例でも、大学教員が受験生の英語を診断するとき、どのような発想に立っているかを知っておくことは、試験の受験準備をする上で非常に役立つと思うからです。

全体が10点とした時の項目ごとの配点の目安とその摘要をまとめてみました。項目は門外漢の人にわかりやすくするために、少し細分化してあります。

表記・作法【1点】

□インデント・句読法・語綴法(大文字・小文字含む)・分綴法・改行法・文字の濃淡・文字サイズ・語間のスペース・クセ字・余白の使い方について、いくつか問題はあっても、読み手にストレスが及ばなければ1点与える。

文意の明解性【3点】

□文法や語彙の使い方に誤りがあっても、脳内で瞬時に自動変換して読み進むことができ、言わんとすることがすべてストレスなく理解できる。‥‥3点与える
□ぎこちない表現に何が言いたいのか戸惑うことがある。言わんとすることは理解できるが、読む上では少々ストレスを感じる。‥‥2点与える
□言いたいことを推察するのに立ち止まっての長考を要する箇所がある。それでもなんとか最後までたどり着くものの、読むのはかなりしんどい。強いストレスを感じる。‥‥1点与える
□考えても理解できそうにない箇所もあり、ぎこちない表現だらけ。仕事でなければ途中で読み進む気持ちが折れるに違いない。‥‥加点なし

文の繋がり【1点】

情報を繋げるのに、以下のような文法要素をうまく活かしていれば1点与える。
□代用表現(one|so|not|doなど)を効果的に用いている。
□省略を効果的に用いている。
逆行照応
□三人称人称詞全般(she|his|themなど)を適切に利用している。
□一人称・二人称の所有格(my|our|your)を適切に利用している。
□決定詞・指示詞(the|this|itなど)を適切に利用している。
□same|opposite|different|(an)other などを適切に利用している。

文章のまとまり【1点】

パラグラフを一体的なまとまりのあるものにするために、以下のような構成上の工夫をしていれば1点与える。
□展開部で述べていることが主題部でもれなく予告されている。
□同一語句を反復せずに同一主題を展開している。(類縁表現や対比表現をうまく用いている。)

必要十分な情報【2点】

□必要な情報が盛り込まれている。‥‥1点与える。
□十分な情報が盛り込まれている。‥‥1点与える。

推論・例証(具体説明)【2点】

□推論が合理的で、論理の飛躍や過剰な一般化が見られない。‥‥1点与える。
□効果的な具象化(例示・比喩など)が行われている。‥‥1点与える。

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