大学入試「自由英作文」問題の深淵 2.1
第2章 尋ねられたことに答える
問の型
自由英作文対策と銘打った受験参考書には2つの特徴があります。
アメリカの Essay writing の低学年向け教科書のちょっと歪んだパクリ
問題をジャンル別に分けているだけ
次はある予備校の講習会の目次です。ジャンル別ですね。
社会・文化に関する問題
環境・科学に関する問題
教育・学習に関する問題
個人的な事柄に関する問題
絵や資料に基づく問題
こういうジャンル別に問題を並べただけの教材は、半日もあれば簡単に編集できるので、巷にはこの種の参考書があふれています。
でも、こういうのは私の言っている「問の型」ではありません。
ジャンル別に学ぶのも表現語彙の習得に役立つ側面があります。ですが、語彙の習得なら自由英作文の問題集を解いたりするよりも、関連分野の英文をたくさん読んだり、ニュース解説などを聴くほうが効率的かつ網羅的でしょう。(おまけに英作文の勉強なのに読解力も向上します。)
実は、とある国立大学の入試の英作文採点者によると、少なくとも受験生の半分の答案は、尋ねられていることに答えていないそうです。ということは、語彙知識以前の段階で終わっている受験生が世間にはかなりいるということ。語彙知識も大事ですが、半数以上の受験生にとっては、それよりも題意の把握のほうがもっと重要なのです。
何を書くのか
すべての問題の題意は次の3種類(および、その組み合わせ)に分けることができます。
Ⅰ型:個人的な好みを書く問題
Ⅱ型:事実を書く問題
Ⅲ型:価値判断を書く問題
これを次のように分けることもできます。
主観的なことを書く問題:Ⅰ型
客観的なことを書く問題:Ⅱ型・Ⅲ型
まずは、この型の理解が必要です。
Ⅰ型は「私は〇〇が好き」「私は〇〇したい」「私は〇〇を選ぶ」などの結論を導くもので、好き嫌いが基盤にあります。好き嫌いの根拠を客観的事実で説明することはおかしいです。たとえば、次はおかしいですね。
栄養価が豊富だというのは客観的事実です。でも、そこから「好き」は導けません。たとえば、次のように言うことはできます。
これはⅡ型(客観的事実を答える問題)の解答です。
もし次のようにすれば、Ⅲ型(客観的事実に基づいた判断を述べる問題)の解答になります。
しかし「好きな食べ物は何ですか?」という問を立てると、実際はこれに対して、次のような趣旨の答が多く返ってくるのです。
いやはや‥‥採点者呆然です。
そもそも《好き》の説明は、究極的には《好きだから》としか言いようがありません。では、どうやって《好き》を説明するかなのですが、その鍵は解答者のこれまでの人生の中にあります。好きなモノや人というのはその人が今までにしてきた体験と繋がっています。たとえば、何か《好きになるきっかけ》になることがあったはずです。根幹に個人の嗜好性がある問題では、そういうエピソードを書くしかないのです。
となると、ここで問われているのは、個人的なできごとや場面を如何に読者にわかりやすく情感豊かに描写するかという「語りの能力」ということになります。映像喚起的な語りが望まれるという意味では、これは一種の「物語創作能力」とも言えます。
ここで測定されているのは、個々の場面や人物のデッサンをする力です。形容詞や副詞を中心とした語彙選択。文をスムーズに繋ぐ前方照応の代名詞の運用。場面転換の際に、時制や相を効果的に用いているかどうか等が問われます。
では練習してみましょう。次はどの型の問題でしょうか?
[1] Write an English paragraph of about 80 words to argue either for or against the following statement: People live longer now, so the normal retirement age should be raised to 70.
[2] 高校あるいは大学卒業後、定職につかずアルバイトで生活する若者が少なくありませんが、その理由はどこにあると思いますか。あなたの意見を80語程度の英語でまとめなさい。
[3] Do leading professional athletes earn too much money? Give your opinion including reasons in an English paragraph of 80-to-100 words.
答は次回に示します。