大学入試「自由英作文」問題の深淵3.1.1.2
今回は問題4の解答編です。
問題4
事実を書く問題
この問題は事実を踏まえて、good/not good を述べる問題です。善悪の判断をするわけではありません。この問題は「どうあるべきか」(カントのいう道徳的当為)を尋ねているわけではなく、globalization の影響が「実際どうなっているか」(実在)を尋ねているだけです。
問題の指示文に your own explanations(あなた独自の理由説明)とありますが、これは無視しましょう。事実はひとつです。それを書くという問題の設定上、独自の説明などそもそも不可能です。
なお、受験参考書の中には 、問題文に reasons とあると「2つ以上の理由を挙げなければならない」としているものがあります。理由が1つだけでも何も問題ありません。単数には複数概念が内包されていませんが、複数には単数概念が内包されています。(だから one or two books と言うのです。)
パラグラフの叙述設計法
では、パラグラフの設計の仕方を考えましょう。
設計法は大きく分けて2種類あります。
(2)のほうは、2種類の異なる情報(A・Bとします)が置かれるわけです。
この A と B の関係は次の2種類しかありません。
では(1)から順に、どんな展開になるかを具体化してみます。
この問題は(1)+(2.1)ですね。
(1) globalization について benefits と drawbacks に分類する。
(2) 以上から Yes, I do./No, I don’t. と結論づける。
大学入試の「自由英作文」は Essay Writing ではない
市販の「自由英作文」の受験参考書にはアメリカの中学生向けの Writing の教科書に書いてあることを、ほぼまるパクリしているようなものが多く、結果的に、その内容は受験生にとっては理想論に過ぎることになっています。日本の受験生はかなり優秀な層でも(思考力は18歳なのですが)英語力はアメリカの小学校3年生並みだからです。
しかも、Writing の教科書に書いてあるのは Essay Writing のノウハウで、1,000 words や 2,000 words の長さの作品を書くことを想定したものです。それをたかだか 200 words 以下の極短パラグラフを書く問題に持ち込むことは実に滑稽なことです。
もし大学受験生を指導する英語講師なら、これを読んでいなければモグリという本があります。
William Strunk Jr., E. B. White (1999) The Elements of Style, 4th ed.; Longman.
受験生もこちらの第1章と第2章を読むといいと思います。
このThe Elements of Style が元になって、今や米国政府は次のような文書作成ガイドラインを作って、一部業務では simple な英語を書くことを義務化しています。英語教師ならこれも MUST でしょう。
Federal Plain Language Guideline
こういうものを噛み砕いて、少しずつ生徒に身につけさせてやってほしいと切に願います。
主題部
では、最初に主題部を書きます。主題部には結論の概要を述べます。これはこのパラグラフの大まかな予告だと考えてください。一番重要なことは、
ということです。逆に言えば、ここに予告しなかった情報をあとで思いついても、このパラグラフには書けないということです。たとえば、
としか書かないでいて、あとで、
などと書くことはできません。最初に次のように言っておくべきです。
これで止めないでくださいね。何かを言ったら必ず理由を添えます。
こうすることで、はじめて(+)と(-)を書く準備ができました。
設計図で結束性を高める
ここでのトピックは globalization です。ここでは globalization にも(+)(-)の両面があると予告するわけですが、この時に展開部で何を言うかを考えて付加しておきます。こうすることで文章の結束性を高めることができます。
このとき、表裏一体となるように(+)と(-)を組み合わせます。
(+)A モノやサービスが世界規模で流通する。
B (例)世界のどこにいてもまあまあの品質のものが安価に手に入るようになる。
(-)C 国内市場を競争に巻き込む。
D (例)ヒトも安価になる(賃金が下がる)
(∵労働力コストの安い国に資本が移動する)
こうすることで、(+)と(-)の間に対位的な関係だけでなく、因果関係が生まれて、さらに文章全体の結束性が高まります。
さて、主題部の続きを考えましょう。A と C を予告しておく必要があります。
展開部
では展開部に移ります。まずは《流通》の(+)効果 B から。
これでは因果関係がわかりません。こうなった原因はなんでしょうか?
まあ、これならまだましですが、ピントがボケていますね。《流通》の(+)効果なのですから、service, goods and money are circulating worldwide を承けることばを加えてください。
だいぶ良くなりました。Because of よりも Due to のほうが自然です。でも動詞を使う方がもっと自然です。たとえば、こんな感じ。
なお、試験の答案に Good とあれば「まあまあ」「なんとか我慢できる」くらいの意味です。同様に things of good quality は「優れた品質」ではなく「まあまあの品質」のもののことです。
さて、この部分と同じように《競争》の(-)効果 D を書きましょう。因果関係を盛り込むのを忘れずに。
ちょっと情報量が少ないように感じます。資本が海外移転することが含まれているといいですね。それともうひとつ。条件節で因果関係を表現していますが、条件節を使うと一般論になります。これをすでに起こっていることに使うのはおかしいです。
修正するとこんなところでしょうか。
準備部分が約20語、A+Bで50語、C+Dで50語を意識して繋いでいきます。
上空から鳥瞰する
今回はB部分の終わりに wealthier という言葉を使いました。D部分の最後で more poorly を使うことがわかっているので、前半と後半の対比を鮮明化することを意識してこのようにしました。
全体をまとめるときに、このように上空から鳥の目で見渡しながら書いていく意識を持つと、早く上手くなります。
単パラグラフでは結論文は不要
なお、このパラグラフは結論文を最後に置いていません。150語程度の超短パラグラフで、しかも単独1パラグラフしかないのに、わざわざ主題部と同内容の結論部を置くのは陳腐というかクレイジーです。
複数パラグラフになると、それぞれのパラグラフの内容を積分する必要があるので、最後のパラグラフの末尾に結論文を置くことにも意味があります。