自由英作文教室(基礎編)1
問われたことに答えない受験生
意外なことかもしれませんが、大学受験生は自由英作文の問題で何を述べなければならないのかがよくわかっていないようです。
実際、入試の採点官がいつもブチ切れています。
「なんで聞かれたことに答えないんだ!」
「工学部のぼくの束は全滅だった!」
「自分の書きたいことしか書いてないよ!」
予備校や大学でパラグラフを書かせても最初は皆同じ状況です。問われたことに関係のある、答えたいことを答えるのです。これはもうイチから教えるしかないと、私の講座では基礎から教えることにしています。
題意を理解する
大学入試の場合、100の問題があれば100の出題形式がありえます。ですが、問題がどんな形式を取っていても、受験生が産出するのは常に100語弱からせいぜい300語くらいまでの短いパラグラフです。
出口はだいたい決まっているわけです。でも、受験生は「100の問題には100の答がある」と思っています。これは半分は正しいのですが、半分は間違いです。たしかに、100の問題ということは100のお題があるわけです。問われているネタが似ていることはあるでしょうが、お題によってネタのあしらい方が違うので、お題も100種ということになります。しかし、求められていることも100種となるわけではありません。お題が100種類あっても、論述型のパラグラフを書くのなら、求められていることは3つの類型に分けることができます。(もし小説を書けという問題が出たら話は別ですが‥‥。)
ちょうど5文型を理解してから複雑な構造の文を読む練習をするのと同じで、この3類型を充分に練習して体得してから、出題形式ごとの変化に対応する練習をするのが理にかなっています。
求められていることAとB
論述型のパラグラフは、まず大きく分けると2種類に分かれます。
練習問題A
この問題は個人的な嗜好を尋ねています。個人的な趣味嗜好というのは主観的なものです。しかも Dan Ariely に教えてもらわなくても、人間は常に合理的な行動を取れるわけではありません。時には不合理なものを好きになることもあります。してはいけないと思うと、よけいにしたくなることってないでしょうか。まさに Predictablly Irrational です。
主観的嗜好は、その理由をつきつめていくと、結局「好きなものは好き」で終わってしまいます。
さすがにそれでは解答として幼稚すぎると受験生にもわかるので、苦し紛れになにかもっともらしいことを書こうとします。その例が(例1)です。
(a)の解答例
何がいけない?
たしかに高温多湿は不快です。過ごしにくいです。ただ、それは非常に多くの人の感覚なのです。
実はそこが問題なのです。高温多湿で不快なのは客観的事実なのです。
主観的な好き嫌いを説明しようとして、客観的事実をもちだすのは無茶苦茶です。
「地球は自転している。だからきらいだ。」
これではわけがわからないですね。何も説明になっていません。(例1)の解答は本質的にこれと同じ無茶をしているのです。
主観的説明
それに対して、(例2)はどうでしょう。
(a)の解答例
この(例2)の説明は主観的です。実に微笑ましい光景が浮かんできますね。採点者は「なるほどねえ」と言ってしまうでしょう。
もうおわかりでしょう。個人の趣味嗜好は主観的なもの。それを説明するには主観的説明が必要なのです。
では次の問題はどうでしょうか。
練習問題B
練習問題Aと同じ類型の問題?と思われるかもしれませんが、よく考えてみてください。
本問は個人の好みを尋ねているのではありません。日本の夏の快・不快と冬の快・不快とを客観的に比較することが求められています。個人の好き嫌いではなく、客観的事実を積み重ねて説明します。
気温・湿度の記述をするのに、個人の感じ方を混ぜ込んではいけません。人々一般の感じ方は気温と相対湿度から算術的に導けます。不快指数という客観的指標があります。
民族によっても異なりますが、アジア人の場合は不快指数は65-70が快適。60を下回ると「肌寒い」と感じ、75を上回ると半数以上が「暑い」と感じるということになっています。
上の計算式で Di の値が 60 ≤ Di ≤ 70 になる場合を調べると、H が低いほどこの条件を満たす T の値は広がることがわかります。(湿度には潜熱が含まれるので当然と言えば当然です。)
だから温熱環境としては(日本に限らず) H の高い夏よりも H の低い冬のほうが過ごしやすいと言えるのです。
これが客観的説明の一例です。
一度まとめておきましょう。
論述型問題は次のように分かれるのです。
A 主観的説明をする問題
B 客観的説明をする問題
これは次のように言い換えることもできます。
A 自分にだけ当てはまることを述べる問題
B 誰にでも当てはまることを述べる問題
求められていること:C
実はこのBはさらに2つに分かれます。
練習問題C
少し長いのですが、2つの解答例を読み比べてみてください。
Cの解答例
(例3)も(例4)も客観的事実が盛り込まれていますが、両者の間には明確な違いがあります。(例3)は自分の好きなものを答えているのに対して、(例4)は誰にでも当てはまることを答えているという点です。
(例3)では、冬の北海道がイチオシだとして、理由として食・風景・雪質をあげています。「多くの人が魅了」「多くの人が感動」「選手がこぞって絶賛」というのは客観的な事実になります。
しかし、もし、これが本当に冬の北海道を推薦する理由になるのであれば「私はスキーが趣味で」や「私なら‥‥強くお勧めする」のくだりは用無しになっていきます。単純に「誰もが冬の北海道を訪ねるべきだ」とすれば十分ということになるはずです。客観的事実をあげて、冬の北海道がいかに素晴らしいかを述べれば述べるほど、書き手の趣味がスキーであることはどうでもよくなるのです。書き手の趣味がたとえサーフィンだとしても冬の北海道は素晴らしいのですから。つまり(例3)は一貫していないことになります。
他方、(例4)は客観的事実を根拠にして判断をしています。主観的意見は含まれていません。これはこの問題Cに対しての正しい解答の仕方です。
問題Bは客観的事実を描写すればそれで完成という問題でした。これに対して、問題Cは客観的事実を述べるだけでなく、これをもとにして推論・判断を述べる問題ということになります。
(例3)の解答も客観的事実から判断をしているのですが、判断の内容として主観的な嗜好を導き出しているところが問題だったわけです。客観的事実を積み重ねて導き出せるのは客観的結論のはずなのにです。
まとめ
今回の記述をまとめておきましょう。
大学入試の自由英作文の問題を、題意の面から類型化すると、基本的に次の3類型のいずれかであるということが言えますが、そのことを受験生は充分に理解していません。
(A)個人の趣味嗜好について、自己の体験を主観的に描写することで説明するもの
(B)客観的事実を描写するもの
(C)客観的事実を描写し、その事実に基づいて判断をするもの
実際の入試問題は、これらを組み合わせて作られていることもありますが、その場合もこの3つの類型に分解して答えることになります。
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