自由英作文教室(準備編)1
はじめに
大学入試でも検定試験でも、高校卒業程度の英語力があるかどうかを調べる試験で、表現力問題というのは、複数パラグラフをまとめる an essay というよりは、単一の a paragraph を書く能力を調べています。paragraph は日本語で「段落」と訳されますが、日本語と違って英語の a paragraph の場合には(小説を書くのでなければ)構成上の決まりごとがあります。
学習者の方々には、まずこの「決まりごと」を身につけていただきたいと思います。数学の公式を暗記しても問題が解けるようになるわけではないのと同じように、実際に英文を書きながらでないと、この「決まりごと」は自動化されません。たくさん文章を書く練習をして、気にしなくても無意識裡に「決まりごと」を守れるようになってください。
用意するもの
これから、その決まりごとを確認していきますが、その前に「英語を書く勉強」をするときに用意していただきたいものをお伝えします。
用意するもの:
■シャープペンシル‥‥芯径0.7-0.9mm、芯硬度2B
(芯径0.5mm 以下のものは日本語用と思ってください。)
■ノート(またはルーズリーフ)‥‥7 mm 罫のもの
■直線定規‥‥20 cm くらいの長さ
文字の大きさと語間スペースを覚える
ノートを開いたら定規で縦に線を引いて横幅15 cmの解答欄を作ってください。
準備ができたら、高1の教科書あたり(自分の書けそうな英語に近いものがよい)から比較的易しめの英文を探してきて、80語分書き写してみてください。
さて、何行になりましたか? 7行目が7-8割埋まったとすれば、適正な文字サイズと語間で書けています。7行目のはじめとか、6行以内なら文字・語間が小さすぎます。逆に、もし8行目に突入していたら文字・語間が大きすぎるということになりります。
字影を鮮明に
2B や4B といった柔らかい芯を使って書くと、文字は勝手に鮮明になります。それに、柔らかい芯はなめらかに滑るように書けるので大量に文字を書いても手が疲れにくいですし、しかもきれいに消しやすいので、時間の節約にもなります。大量筆記を毎日する新聞記者は皆 2B か 4B を使っています。
太めの芯を使うメリット
芯径0.7 mm や0.9 mm というのは北米で売っているシャープペンシルの標準的芯径です。漢字のような複雑な図形を書くのには0.5 mm以下の芯径のほうが有利かもしれませんが、英語にはそう複雑な文字はないので、0.7 mmや0.9 mmの芯径でよいということになります。
他にも、太めの芯を使うことにはいくつかメリットがあります。第1は折れにくいこと。第2は文字サイズが適正になること。日頃細かな漢字を書いている日本人は、英字を書くと小さくなりすぎる傾向があります。太めの芯を使うと自然にいつもよりも大きめの文字になるため、結果的に文字サイズが補正されるのです。
クセ字は矯正しよう
日本の通信講座に英字ペン習字があるのかどうかは知りませんが、あったとしても受講の必要はありません。
試験の答案に書く文字は流麗である必要はなく、大切なのは読みやすさ。誤読されやすい書きクセのある場合は、社会に出てからも困るかもしれません。文字矯正も視野に入れてはいかがでしょうか。
たとえば、iPhoneのVoice Overに実装されている手書き入力機能や、iPadの手書き入力アプリScribbleで、あなたの英字が正しく認識される確率が低ければ少し注意した方がいいでしょう。
ただ、すべての文字に神経質にならなくても大丈夫です。多くの人はいくつかの特定の文字に気をつければいいのです。
よく見かける判別しにくい文字は次のようなものです。
a と u が判別しにくい。
u と v が判別しにくい。
v と r が判別しにくい。
b と f が判別しにくい。(筆記体の場合)
b と h が判別しにくい。
h と k が判別しにくい。
字のクセは自分ではなかなか気づかないものなので、他人が「読みにくい」と指摘してくれたときにはありがたく従いましょう。
Mechanics
では今回は Mechanics と呼ばれるものについてお話しします。
これは表記に関する決まりごとです。
実際に答案を見ていて、一番多いのはインデントと句読法に関するミスです。
インデント
インデント(indent)というのはパラグラフの始まりを告げるもので、冒頭行の字下げのことを言います。答案を手書きするときは必ず 20 mmくらい字下げします。目安としては大文字のMを5つ分と思っておくといいです。
日本人は原稿用紙の最初のひとマスを空けるクセがあるからか、10 mm くらいしか下げない人がいますが、これではインデントのうちに入りません。
ちなみに、TOEFL のようにコンピューターを使って答案を書くときはブロック・フォーマットと言って、インデントする必要はありません。その代わりに、パラグラフとパラグラフの間を1行あけてください。
句読法
句読法(punctuation)のミスで多いのは句読点の位置に関するものです。
句読点は直前の単語の一部をなすもの。
たとえば Tom’s book だったら、’s は直前の Tom とピッタリくっつけて書かないといけません。これを Tom ’s book と書くのは誤りです。
上の例はどなたでも「それはおかしい」と思われると思います。しかし、これと同じように(私の目には)おかしな現象が、答案には散見されます。次はその一例です。
○:… Tom, who …
❌:… Tom , who …
これはスペリングの誤りと同レベルの誤りです。日本語のように語間の空きスペースの真ん中に句読点を打つのはやめてください。
その他のMechanics
Mechanics errors には他に次のようなものがあります。
語綴を間違えている
分綴位置を間違えている
してはいけない改行をしている
大文字・小文字を間違えている
文字の可読性・判別性が低い
欄外記入
語間・字間が適正でない
改行
改行というのは、a paragraph を2つの paragraphs に分ける操作です。a paragraph には the main idea が1つあります。a paragraph を分けるということは main ideas が2つあるということです。
イイタイコトが2つあるのなら、改行して分けるのは正しいのですが、それ以外の場合は(どんなに長くなっても)改行しません。
答案を見ていると初心者の方だと思うのですが、1文書くごとに改行している方がいます。これはまさに「してはいけない改行」の例です。
語間
日本人学習者は1語1語を切って発音しようとするからか、一般に語と語の間のスペースが広くなる傾向があります。結果的に、解答欄に解答を書ききれなくなって、大幅に消して書き直し‥‥というようなことになってしまうことがあります。これは時間と労力の大きな無駄になりますので、適切な語間を覚えるのが賢明です。最初のうちは「心もち狭く」と心がけておけばいいと思います。
また、答を書き上げた後に修正する必要が生じて消しゴムで消した部分がぽっかりと空いたままになっている答案もあります。
採点者から見れば「怪しい空白」です。答案を書く受験者の側にすれば仕方がない面があるのは理解できますが、実は不正行為が疑われることもあるので、なるべくこうした空白は作らないようにご注意ください。
欄外記入はご法度
語間や空白と関係あるのが欄外記入です。
語間が広ければ同じ語数でも解答欄が多めに必要になります。ムダな空白がある場合も同様です。
解答欄の最後の行を使い切り、書ききれなくなった解答を解答欄の余白に書いてしまう。これが欄外記入という行為です。
欄外記入は不正が疑われるため、各大学はシビアに対応します。問題冊子の表紙に「解答は指定された解答欄に記入すること」とか「解答用紙の余白には何も記入してはならない」などの注意書きがあるのはその表れなのです。
欄外記入はヘタをすると答案全体が無効になっても文句は言えませんが、実際に欄外に記入があった場合にはどう扱うべきかについては様々な意見があります。
指導と試験では当然異なってきますが、試験の場合に有力なのは
「解答欄に書かれたものを解答とみなす」
という考え方です。至極真っ当な考えだと思いますが、指導現場から見ると、かなり厳しい態度のおうにも感じます。
これはつまり、
「ハミ出し部分は書かれていないものとみなす」
ということ。
あくまで可能性ですが、そういう判断をされる可能性はある、と心に留め置いてください。
これがすべての大学に当てはまるのかどうかはわかりませんが、正式書類があって、充分な記入欄が用意されている時、そこからハミ出さないようにするのは正しい礼儀です。
自分の文字の大きさや語間スペースにこだわるのも、アートの世界でなら意味があると思いますが、こんなところで芸術的こだわりを主張するのは場違いではないでしょうか。やはり、ハミ出すことのないように適切な文字の大きさや語間を知っておくのが賢明だと思います。
まとめ
今回採り上げた Mechanics errors はアタマではわかっていても、うっかりやってしまうものです。しかし、
うっかりミスはほぼすべてが経験不足。
練習を積むことで大変のうっかりミスは防げます。それでもしてしまうミスは1つくらいはあるかもしれませんが、たかだか80語の英文です。書き終わってから見直すことで修正できます。それを見落とすのはやはり練習不足。しっかり練習して、Mechanics 配点(学会で最もよく言及される ESL Composition Profile (Jacobs et al., 1981) では配点の10%に相当します)を失うことのないようにしましょう。
練習問題1
以下の文には Mechanics の面から見て、訂正しなければならない箇所が7つあります。それはどこでしょうか?
〔参考文献〕
Hartfiel, V.F., Hughey, J.B., Wormuth, D.R., & Jacobs, H.L. (1985) Learning ESL Composition (English Composition Program). Rowley, UK: Newbury House Publishers Inc.
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