大学入試「自由英作文」問題の深淵 1
第1章 プラチナ万年筆「プレスマン」(笑)
Mechanics
答案を見るときに、最初に採点者がざっとチェックするのは Mechanics です。日本語で言えば「表記法+文章作法」といったところでしょうか。Jacobs et al., (1981) で提唱された ESL Composition Profile では5点配点(100点満点)されています。
参考図書
Essay Writing を評価指導する上での古典。これを知らない英語教師はモグリです。
Jacobs et al., (1981). Testing ESL Composition: A Practical Approach. Newbury House, Rowley, MA
なお、日本では以下の場合は不正が疑われる可能性があります。
不自然な空白がある。
英語以外のことば・記号が記入されている。
余白に文字がハミ出している。
このような方法で答案を書いて、受験生が不正を試みた実例が過去にあるのです。特に、当事者となった大学は神経を尖らせています。
を守りましょう。
Mechanics には次のような5項目が該当します。
改行法(paragraphing)
句読法(punctuation)
語綴法(spelling/ capitalization)
分綴法(hypenation)
表記上の注意
以下、順に説明します。
最初の4つは「スペリングは正しく」でわかるように、当たり前のルールばかりです。
改行法:
パラグラフの冒頭はインデントする。
インデント幅は大文字の M 5つ分。
改行するのはパラグラフを変える時だけ。
語綴法:
スペリングは正しく。
大文字を正しく使う。
小数を除く2桁までの数量詞(単位のないもの)はスペルアウトする。
句読法:
直前語と句読点の間にスペースを空けない。
句読点は行頭に打たない。
分綴法:
行末で単語を切り分けるときには、正しい位置で切る。
分けた語の前半部にハイフンをつける。
以上の4種類は文章の書き方のルールの基本です。より詳しくはこちらをご覧ください。
Grammar Book.com
https://www.grammarbook.com/punctuation_rules.asp
表記上の注意:
「表記上の注意」というのは社会的常識(マナー)と言ってもよいでしょう。志願書や履歴書を乱雑な文字で書き殴るのは非常識の謗りを免れません。答案も同じです。文字の書き方は書き手の常識の有無を示します。試験の答案で気をつけるべきことはただひとつ。
これだけです。答案というのは自分用のメモではないのです。読んでくれる人のために書くのです。対面で会話する時のように、相手への気遣いをお願いします。
読みやすい語間
老眼世代でなくても、語間が広すぎるのは読んでいてイライラしてきます。日本人の英語は語と語の間が心持ち広いので、「すこし詰めて書く」くらいの気持ちでいたほうがいいと思います。狭すぎるのもいけませんが。たとえば1行10語と決めておいて、右に余白を残すくらいにしておくのもいい考えだと思います。
老眼世代に優しい字
老眼世代に優しい字というのはどうすればいいかというと、
サイズは大きめ。
字影は濃く鮮明に。
薄い文字・かすれた文字は「消し忘れ」として無視されることもあります。極端なクセ字にも気をつけてください。ペン習字を習う必要はありませんが、極端なクセ字は直したほうがいいと思いますよ。
よくある例では、次の左/右の文字が同じに見える字を書く人がいます。
a/u a/o u/o u/v v/r r/n n/h h/k
字のクセというのは自分では気づきにくいものなので、他人に指摘されたときは素直に受け入れましょう。
ところで、字が「小さすぎる」とか「薄い」と指摘されたことのある人にはおすすめの簡単な解決策があります。英語の試験の時だけ、シャープペンシルの芯径と芯硬度を変えてください。字が「小さすぎる」と言われた人は芯径の太いものにします。字が「薄い」と言われた人は芯硬度の柔らかいものを使います。
たったこれだけで、細かい字は自然に書けなくなりますし、薄いと言われた文字も柔らかい芯を使えば自動的に鮮明な字影になります。
ちなみに、みなさんご存知でしょうか。プラチナ万年筆が出している「プレスマン」というシャープペンシルがあります。
職業上、大量の文字をものすごい速さで書かなければいけない記者用として開発され、発売以来プロから長きにわたって信頼を得ている製品です。受験生にはぴったりだと思います。このプレスマンは芯径は0.9 mm、芯硬度は 2B なのです。
0.2 mm とか 0.3 mm なんていう細い芯径は日本ならでは。漢字の複雑な紋様を書くためのもので、英語圏では製図用です。コンビニなどで売っている英語圏の標準的な mechanical pencil の芯径は 0.9 mm です。(最近は 0.7 mm も売っているところがありますが、0.5 mm は見たことがありません。)英語の文字を書くには 0.3 mm や 0.5 mm では細すぎるのです。
手が汚れるのを嫌って、芯硬度 H や F を使っている人もいますが、これは字を書くのに慣れていない人。絵の具と同じで汚れたら後で洗えばいいのです。記者は 2B などの柔らかい芯を使います。なぜか? 柔らかい芯は疲れにくいというのが最大の利点です。第一に書くとき。摩擦が少なく、弱い筆圧でも字影がくっきりするので、長時間筆記でも疲れにくいのです。第二に消すとき。柔らかい芯は弱い力でも完全に消えます。使用中のストレスが下がるわけです。
お勧めしておいてなんなの?ですが、筆記具に関する他人のオススメは話半分で聞いてください。個人個人で手指は違うので、筆記具の軸の太さや硬さには相性があります。万人向けのマニュアルは参考程度にして、ご自身の感覚を信じたらいいのです。店頭で試用してみて、さらには何種類か実際に使い込んで、自分に合うものを見極めてください。私自身、プレスマンの使用頻度は低く、コクヨの鉛筆シャープに手が行くことが多いです。もともと筆圧が強めなこともあってプレスマンの細軸が手指に馴染みません。もう少し太めの軸にエラストマー素材のグリップのついているものが好みです。芯径はやはり 0.9 mm の方が好きなのですが、実用上は 0.7 mm を使うことが多いです。仕事上あちこち移動しながら書くことが多いので、持ち歩きを1本にしたいためです。オフィスでは書きやすさ優先ですので、2種類を使い分けています。もし私が受験生なら日本語を書くときと英語を書くときとで使い分けますね。なお、芯硬度は 4B の圧倒的なめらか感が好みです。
文字表記についてはひとりよがりは危険です。40代後半以上の老眼世代に答案を見せて、なんらかの指摘があれば素直に受け入れておくほうが良いと思います。
採点者の立場から言うと、読みにくい文字を解読しようとしていると1枚あたりの採点時間(1問約1分)をすぐにオーバーしてしまうので、読みにくい箇所は(申しわけないけれども、何も書かれていないことにして)読みとばすしかないのです。短時間で評価を決定する必要がある以上、ある程度はしかたのないこととご理解ください。
では、最後に練習問題を。
次の英文には1行に1つ正すべきおかしな箇所があります。
もうみなさんはおわかりですよね。