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自由英作文教室(準備編)3・完

大学入試と模擬試験

前回《準備編2》では、分析的評価法のことをお話ししました。採点者間のブレを最小化するために、いくつかの評価項目に分けて配点するわけです。

たとえば、受験産業の模擬試験でも、「内容」と「英語」の2つに分けて採点が行われます。これとどこが違うかというと全然違います。

まず「内容」についてですが、模擬試験では「与えられた題材に即しているかどうかを三段階で評価する」といった基準しかありません。しかし大学入試では、書くべきポイントがいくつか定められていて
「Aについて述べていれば1点加点」
「Bについて述べていれば1点加点」
というように積算根拠が明確になっています。

また「英語」に関しても大きく異なります。模擬試験では「誤り」とされる箇所を1つ1つ減点する方式で採点しますが、大学入試では「誤り」という概念には重点を置きません。「通じやすさ」「読みやすさ」の度合いを段階的に評価します。

大学入試の採点基準の原点

多くの大学が入学試験において TOEFL の Independent Writing Task の Rubrics をアレンジして利用しています。興味のある方は以下の ETS のリンクをご覧ください。

TOEFL iBT Independent Writing Rubrics
https://www.ets.org/s/toefl/pdf/toefl_writing_rubrics.pdf

TOEFL満点はすごいのか

ちなみに、大学受験生の中にはこの Independent Writing で5点満点をとる生徒も少なからずいます。

これまでに個人指導してきた高校生で、iBT受験者は何十人もいますが、そのうち一番成績の低かった生徒の TOEFL iBT スコアは112(満点120)でした。実際、110以上の高校生はゴロゴロいます。Writing Section のスコアが28以上(満点30)の高校生は(特に首都圏ですと)珍しくないと思います。

つまり、TOEFL満点だとしても、まだまだ高校生のトップ層レベルだということです。

しかし、iBTで110以上のスコアですと、日本では一般的には「英語使用者として上級」とされますし、「ネイティブスピーカーと遜色なし」と言う人もいます。

そのせいでしょうか、最近の英語教師の中には TOEIC や TOEFL のスコアを英語力の証明のつもりで掲げている人もいますが、そんなことをするのはお里が知れるというもの。

私の感覚では「英語使用者として上級」なのは日本の中だけの話ではないかと思います。「ネイティブスピーカーと遜色なし」というとしても、母語話者の小中学生と比べての話ではないでしょうか。

母語話者にも常識的教養には差がありますが、聖書のフレーズも知らず、Ezra Pound も読んだことがないのでは、Bob Dylan の歌を聴いても感動できないでしょう。

英語母語話者で Bob Dylan が何を歌っているのかわからない‥‥というような人はあまりいないのではないかと思います。これが母語話者の英語力と言うつもりはありませんが、その一端は示していると言えるでしょう。

もちろん、どんな試験であれ満点は素晴らしいことですが誤解はしてはいけません。いわゆる英語検定的なものは、あくまで non-natives としての英語力を測定しようとして試験が設計されています。実際に満点の人は自分の英語力を「母語話者と比較して遜色なし」などと思ってはいないでしょうが、英語産業の世界には商売のために色々と怪しげなことを言う人がいるものです。

4点と3点は何が違う?

話を採点基準に戻しましょう。

ETS の公開している Rubrics のうちで、難関医学部を目指す受験生にとって、重要になりそうなのは4点と3点の評価に書かれている諸項目です。そのままの引用は著作権侵害になるので、ここでは概略を示します。

4点
この答案は概ね以下のような要素を満たしている。

  • 主題に沿って叙述を行い、答えるべきことにだいたい答えている。ただし幾つか改善や工夫の余地がある点もある。

  • 全般的に構成はそこそこまとも。論理展開もまずまず。説明内容も具体例示も不十分とは言えない水準にある。

  • 全体の叙述は一貫していて、まとまりがあると言って良い。ただし、時に重複表現がくどかったり、意味のない情報が散見されたり、話のつながりが曖昧だったりする。

  • 時に文構造の誤りや不自然な語法が見られるが、意味は曖昧になっておらず、総じて多様な構造の文を使いこなし、語彙の使用幅も狭くはない。

3点
この答案は次のような特徴を幾つか示している。

  • 主題に沿って叙述を行い、答えるべきことにだいたい答えている。

  • 論理展開はなんとか繋がっており、具体例示もかろうじて行われてはいる。

  • 全体の叙述に一貫性もまとまりもないとは言えないが、時に話のつながりが見えないところがある。

  • あまり筋の通った表現選択ができておらず、結果として明解さに欠けた曖昧な文が生じている。

  • 文法・語法上は文の構造は正確だが、使える文パターンの幅が限られており、語彙の幅も比較的乏しい。

特に太字の部分にご注目ください。

これは前回《準備編2》で説明した、分析的評価の中の「文意の明解性」に関わる項目です。配点を「内容」と「英語」に分けるなら、「英語」に属する記述です。

要するに
「正確だが、知識がしょぼい」のは3点
「誤りがあっても、英語が多彩」なのは4点
というもの。

中学英語で誤りなく書いただけの答案は低評価。通じる限り、誤りがあっても高校英語を駆使したほうが高評価ということです。

はい。これが私を含め大学教員のたぶんかなり多くがもつ「正確さ」に対する考え方です。「こう書いたら減点になりますか」と質問してくる「○か×か」至上主義の高校生にはもはや「ほぼ毒物」(笑)とすら言えるかもしれませんね。

高校教科書の英語は大事

いつも言うのですが、中学3年、高校1年、高校2年向けの教科書で習う英語を全部使いこなせるようにすれば、大学入試で困ることはありません。

世界史だったら教科書の最後までが大事になるでしょうが、英語の場合は高校3年生の教科書で習った英語が使いこなせなくても(こと大学入試に関する限り)困りません。

問題は「使いこなせる」の意味です。

教室で流される教科書音声と同程度の速度で話される他人の意見を批判的に分析して、同程度の速度で、習った表現を使い、習ったロジックで自分の意見を組み立てて言える。

これが「使いこなせる」の定義です。

上述の iBT スコア112の高校生は自分の英語力を「高校2年のはじめくらいのレベル」と言っていました。きわめて率直で的確な自己評価だと思います。

この生徒の大学入試向けの模擬試験の成績は「偏差値75のあたりをうろうろ」というものでした。医学部受験生ですと偏差値80を越える受験生もいっぱいますが、iBT では100も越えないかもしれません。指導者としての実感の面でも、この75の生徒のほうが英語力は明らかに上です。

このエピソードからは2つのことがわかります。

第1は、大学入試向けの模擬試験は、英語力をちゃんと測定できていないということ。第2は、大学教員が見れば、どの答案の書き手の英語力が上かは一目瞭然ということ。

中学や高校で習う英語を大切にするとともに、余裕があれば、もっとインプットを増やしてください。できるだけ多くの生の英語に触れていただくとよいと思います。

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