大学入試「自由英作文」問題の深淵3.2
論理展開の型
前回の3.1.1.2の記述の中で、パラグラフの構成法を次の3つに分けました。
ものごとを説明するときに「何を書くか」は最も重要なものですが、次に重要なのは「どのような構成で書くか」です。この3種類のどの方法が適切なのかを吟味してから説明にとりかかることが必要です。
たとえば次の問題では、どのように説明をすることになるでしょうか?
例題A
例題B
まず何を書くかを絞ります。次の3種類から選ぶのでしたね。
Ⅰ 主観的‥‥体験/嗜好‥‥創作
Ⅱ 客観的事実の叙述(+推論)
Ⅲ 客観的事実の叙述 +価値判断
この例題A・BはいずれもⅡです。客観的事実を述べることになります。ですから、例示部分に個人的体験を用いてはいけません。(たったひとりの人間のたかが一回の経験を一般化できる(=誰にでも当てはまる)と考えるのは非常に愚かなことです。)
では、どのようにして客観的事実を説明するのが効果的でしょうか?
このA・B両題には共通する点があります。
あと、あたりまえすぎて明示はされていませんが、次の点も重要です。
相手の立場から説明する
説明の基本は、会話の相手(英語話者)の立場に立って説明を組み立てるということです。例題A・Bでは相手の文化に存在するものを出発点にするのが理想です。
まずAについて考えてみましょう。
英語には Two heads are better than one. という箴言があります。複数の人が集まるという点は「三人寄れば文殊の知恵」に似ていますが、「一人の時よりも良い考えに辿り着く」というのと「文殊の知恵」では次元が違います。(なにせ、文殊は釈迦の横に並んで立つ菩薩ですから。)
この Two heads are better than one. は英語母語話者(9年生以上)なら誰もが使ったことがある(か、少なくとも耳にしたことがある)常識的フレーズです。
このように相手の知っているものを取りあげて、説明したいものと比較をします。つまり、似ている部分と似ていない部分を挙げていく(=類比と対比をする)わけです。すると相手は日本語母語話者とかなり近いアイデアを確実に得ることになるでしょう。
つまり、説明の基本方針は(2.2)です。
さて、例題Bはどうでしょうか?
すだれに似たもので、英語圏にあるものを考えてみましょう。オーニングとかブラインドが浮かぶと思います。すだれを外国人に説明したければ、まずブラインドを持ち出して、類比と対比をすればいいわけですね。
困ったことに、Aを出題すると完全に方針を間違えた答案が続出します。「3人」を many people と言い換え、「文殊の知恵」を better ideas と言い換えることで、全体を The more people get the better ideas. などと置き換えてしまうのです。
こうなると、そのあとに何も書けなくなって途方に暮れてしまい、「1人で困っているときに友達にアドバイスされて問題が解決したことがある」などという例を挙げる、というデタラメな答案になりがちです。
答案に The more people get the better ideas. とあると、採点官は次のような感想を持つかもしれません。
こういう風に思われたら、それはその答案のロジックが受け入れてもらえていないということ。論理に穴があるか、無茶をしているかです。
ロジックに弱い人
これは日本語でも、日頃から、論理的に粗雑な話し方をしていることが原因なのではないかと推察します。世代の異なる人や、同世代でもはじめて話す相手には、思っていることが上手く伝わらない‥‥という方は意外に多いです。ご本人もそれと気づいていないこともあります。親しい友達とであれば、上手く話せているような気がしているだけなのかもしれません。
心当たりのある方は、次の書籍を手に取ってみてください。
三森ゆりか(2005)『子どものための論理トレーニング・プリント』PHP 研究所.
小学生向けの本ですが、だからこそ大切なことばかりです。
実は同じ内容を医学部の授業や企業研修でもやっています。できれば各章末の問題は英語で答えると、穴のない自由英作文の対策になります。
言い換え・具体例で説明する問題
さて、上で、三人=複数 というように言い換えていくと破綻してしまうという話をしました。しかし、方針(1)の答え方はうまくいくこともあります。
たとえば、次のような問題です。
例題C
これは具体例をあげて説明するだけの問題です。
人類史において繰り返されてきた歴史と言えば戦争がその最たるものでしょう。その極めつけが第一次世界大戦・第二次世界大戦でした。
説明は、中学の社会科で習う程度の「国民的常識」があれば可能です。
歴史解釈は学者によっても時に意見が分かれるものですが、二度の大戦の背景として、経済植民地を拡充しようとする帝国主義的政策があったということくらいは誰でも知っていますね。
最近の大阪大学は70語程度の解答を求めていますので、次のような解答が考えられます。
以下に順に説明しておきます。
まず、主題部を書きます。(a) は Topic Sentence です。
ここでは少し意表をついたものにしてあります。その方が読み手を惹きつけるというのが感じられるでしょうか? ただ、(a) だけでは、このあとどういう展開にもっていくのかが伝わりません。
ということを守ってくださいね。
(b)はそのための文です。パラグラフの主題と展開部を繋いで、全体を統制するので Controlling Setence と言うこともあります。
では、次に展開部です。
(c)が展開部(supporting details)です。
(c)ではまだ植民地という言葉は出さずに、領土の奪い合いが背景で戦争が繰り返されることを説明しています。このように最初は大まかに、段階的に具体的な言葉を使うのです。(このあたりが日本人の苦手とするところです。)
ここまでは数学的帰納法のような説明です。戦争N が終わって、しばらくすると戦争 N+1が起こるということを述べています。これで答案の心臓部は終わりです。
あとは具体的な描写を添えます。人類史を通じて戦争が止むことなく繰り返されてきたことを述べて、History repeats itself. という箴言に沿うことにします。
上手い答案とそうでない答案の差
ですが、history は(e)にとっておきます。
そして、(e)までの繋ぎの文を考案します。こういう繋ぎ部分が作文の難しいところで、そこがうまくいくと文章の流れがとても滑らかに見えます。
ちょっと解答例の仕掛けを説明しておくと、今回の(d)は「おびたただしい血の犠牲をもってしても、植民地主義の提唱者の人徳を高めることは(これまでもこれからも)ないのだ」としました。この文は(c)から受け取る情報と、(e)に渡す情報を融合することで、締めの文(e)を大まかに予告しています。
war を blood sacrifices と言い換え、territories を colonialism に移し替えることで、(c)からの繋がりを確保しつつ、never(一度もない)を入れることで、(e) の history に橋渡しをしています。
こういう工夫ができると、文章の結束性が高まります。様々な研究で、結束性の高さは作文が上手い人とそうでない人の分水嶺であるとされています。
文章の流れを決めるルール
この答案例は2つのルールで文が流れていることがわかるでしょうか。
このルールは文章構成の基本ルールの中でも一番大切な2箇条です。常々意識するようにしてください。
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