ライブ絵師JIN(週刊少年マガジン原作大賞/企画書部門応募作品)
・キャッチコピー
ウイルスに感染したお絵描き環境で、少年絵師ジンのクリエイト魂が生き延びる道はあるのか!?
(44字/一文50字以内)
・あらすじ
少年ジンは自室のパソコンでデジタルペイントにいそしんでいた。それをライブ配信するのがジンの趣味だ。その夜はサイバー部隊の隊長の絵を描いていた。けれど下手の横好きで、閲覧者はゼロ。そんな閑古鳥の鳴く中、事件は起こった。
突然、絵が動き出したのだ。画面上の隊長は武器が欲しいと協力を迫ってくる。慌てふためくジン。だが怪しげな黒いモヤが出現するや、覚悟を決めて武器を描いて渡す。
隊長いわく、大事なデータを守るためには戦うしかない。ジンは下手なりに武器を描き続ける。悪戦苦闘する様子がウケて、配信は軽くバズり状態に。初のコメントをもらって喜ぶジンは、隊長と連携しつつ成長を遂げていく。
(287字/300字以内)
・1話用ストーリー
「よ~し生放送やるかぁ!」
音量OK、ペイントツールOK、今日も動画配信サイトでお絵描きライブ。閲覧数はゼロだけど。ま、最近はサイバー部隊を描いてる。ネット犯罪から市民を守る隊長だ。でも武器を描くのは苦手なんだよな。手もやばい事になる。
『よう』
男前な声に続き隊長の足が動いた。
――え?
あろうことか小さな隊長は屈伸を始めた。あり得ないだろ、ハッキングされたのか。いやさすがに無理だよな、と思い直す。
「俺クスリなんてやってないぞ」
すると画面端に黒いモヤが出現。
『おい武器をくれ、なんでもいい早く!』
「か、描けそうな武器……短剣くらいならッ」
描き渡したそばから彼はモヤを切り裂く。
『まだまだ来るぞ。頼む手を貸してくれ』
「あの、生放送中なんだけど……」
『データがふっとんでもいいのか!!』
「クラウドにコピーあるし、問題な……」
『エラー増幅は敵の得意技だ。オンラインだと一緒に消されるぞ』
怜悧な視線にゾッとした。マジか、これ俺が描いた絵?
『信じないなら別に構わない。後で困るのはそっちだ、ジン』
「待って!!」
名前を呼ばれ思わず口走っていた。配信ツールに目をやれば閲覧数が軽くバズっている。背に腹は代えられねぇ。大急ぎで銃を描くと、隊長は乱暴にそれを手に取った。素早いフォームから間髪入れず発砲。
BLAM!!
銃弾があらぬ方向へそれていく。
『なんだこれは! 銃身が曲がっているぞッ!』
隊長のダメ出しに耳が熱くなる。
「ごめん! 急に描いたし武器は慣れてないから……」
『しばらくこれで凌ぐ。その間にもっとマシな物が欲しい』
マシンガンや戦車は思いつく。でも描けるかどうかは別だ。
――描けるワケねえよぉ。
画面では隊長が孤独な戦いを繰り広げている。だが閑古鳥の鳴いていたチャット欄に、幾つもコメントが入った。
《ケガに備えてポーション描いとけ》
《外付けSSDにバックアップ》
《焦るな。神絵師の動画で武器の描き方を学べ》
(917/1000字以内)
・2話以降用
「うぉスッゲー、初コメントだ!!」
思わず声が弾んだ。視聴者の声がこんなに?!
――テンション上がるぜ。そうだよな、俺も神絵師の動画好きだし。あれずーっと見ちゃうんだよな……っていまネット検索してる場合か! 第一、そんなぽんぽんアイディア出されても困る。コメント拾うなんて慣れてないんだから。
ま、ポーションなら描ける。俺はビン入りの赤い薬をサッとしたためた。
『医療班の手配に感謝する』
続けて外付けSSDを準備。
『やめておけ、それも感染するぞ』
隊長の警告でUSBケーブルを持つ手が止まる。パソコンからの感染リスクを忘れてた。薬はOKだったみたいだけど、じゃあ次はどうすればいいんだよ。
見れば隊長は新しく現れた黒い影に対峙していた。最初のモヤより色も形もハッキリとして、悪性のウイルスのようだ。結局俺は一度成功した短剣を再び描き渡した。隊長はそれをつかみ取ると、よどみない動きで敵に向かって踏み込む。
SLASH!!
剣閃が走る。だがモヤに当たると短剣はあっけなく折れてしまった。見ればドス黒い影は勢いを増し、攻撃が効いていないと分かる。
隊長は首を振った。
『こんなナマクラではダメだ』
そうもらすと折れた剣を無造作に放った。
たしかに切れ味が悪いのは、線が太くてヨレてるせいかも知れない。でも、そんな言い方しなくたっていいじゃん。シャープな線を引けない自分が恥ずかしくってザワザワと頭に血が上る。
「なんだよ、俺だって一生懸命描いたんだよ! 俺の絵が多少変だからって何を言っても良いわけじゃないぞ!」
隊長は俺の言葉に耳を傾ける暇もなく、口を閉ざして黒いモヤと戦闘中だ。パワーアップした敵は手強くなかなか倒せないようだった。不出来な銃で器用に敵と戦ってるけど、残弾はあまり多くないはずだ。
……沈黙が気まずい。でも怒った手前、相談しにくい。
そこへ一つのコメントが目に飛び込んだ。
《魔法の杖は簡単に描けるんじゃね?》
ナイスッ! それなら火の玉とか自由に出してモヤを吹き飛ばせる!
ヨレヨレの木枝くらい問題ないとばかりササッと描き出す。だが、
『マジックポイントが足りない。残念ながら俺は魔法使いじゃないんだ』
苦々しい声。そうだ、隊長は特殊部隊の兵士だった。俺が作った設定なのに忘れてどうする。これがいわゆる絵師の言うところのボツ絵ってヤツか? なんか酸っぱい。まあいいや。それはともかく、ええと、敵を吹き飛ばせて、ウーン、それでいて描きやすい武器と言えば……
思いつかなくて、グルッと丸を描いてみた。ハッ。そこで閃く。
丸の中に縦線と横線を何本か引いて、上にレバーみたいなのを付ける。深緑色に塗ったら軍仕様だぜ。俺は手榴弾を描いた。パイナップルみたいなやつだ。
「これどう?」
描き渡した刹那、隊長が目を見開いて叫んだ。
『安全ピンが外れているぞ!』
手刀で手榴弾をはじき飛ばし、すかさず後方へと跳びのく隊長。
数瞬後、画面内で大爆発が起きた。
KABOOOOOM!!
《隊長ぉおおおおおお!!》
《安全レバーがああも短くちゃ握れんだろ》
《なんかハンドソープみたいな形だったw》
散々なコメントでチャット欄が荒れる。
やっべー、やっちまった。脇汗が吹き出す。
たっぷり十秒ほど針のむしろの上にいる気持ちでいると、煙の中から隊長がゆらりと出てきた。無事なようだが静かにうつむいていて表情は見えない。
俺は叱責を覚悟した。でも、
『武器セレクトは悪くなかった。おかげで当面の危機は去ったぞ、ジン』
隊長が言い終わるが早いか、肩のライトが赤から青の点滅に変わる。
グッドサインを出した隊長は顔をほころばせ、続いて敵のいた方を指さす。黒いモヤは四散していた。
《黒モヤ撃破ぁあああ!》
《勝利おめ~》
《隊長生きててよかった》
パソコン画面からモヤが消えるとともに、チャット欄が沸いた。
やったぜ、俺の絵が脚光を浴びている!
小さなサイバー部隊長は、赤い回復薬を取り出すと一息にあおった。
《おお、くすんでた軍服がキレイになってく》
《HPは見えないのな》
『うまい。今まで受けた中で最も上質の治療だ』
「そっか? この赤色でよければ何杯でもどうぞ」
俺は空き瓶にお代わりを描き満たした。
《ときにパイナップルの詳細はここにある》
貼られたリンクをたどると手榴弾のページが出て来た。写真もバッチリある。また手榴弾が誤爆しないように、俺は絵の修正に取り掛かった。チャット欄にも助けられながら、安全ピンを加え、安全レバーを長く改良。こんなにマジメにやったのは初めてだ。そして隊長から使い方をレクチャーされ、取り扱い方法を学んだ。
「あー、そういう構造になってたんだ。知らなかったわ」
実際使っている人を見るとわかってくる。俺はタブレットペンを軽く握った。よしッ、なんかつかめてきたぞ。
『手榴弾はグッドアイディアだったな。これは実際、ウイルスと戦うために有効な武器だ』
隊長の声が温かく響く。ここまで緊張の連続だったけど、励まされてホッとした。後でもうちょっと練習しておこう。
ふぅーっ。背もたれに体をあずけてモニターを見る。リラックスしたせいか、画面内の違和感が気にかかった。隊長の手の動き……明らかにぎこちない。
たぶん俺の、つまり、デッサンがおかしいせいだ。武器の精度が増したぶん、描写が細かすぎてパーツを掴みあぐねている。
――ああ、ごめん。
不意に思った。俺、手が描けるようになりたい。
今までそんなの考えた事はなかった。だって面倒くさいから。
細かいところなんてどうでもいい。だってよく知らないから。
ずっと目を背けて来た事実だけど、逃げてはいられないか。でもだからって武器を持つ指とか、手を描くのって難し過ぎるだろ。いきなりハードルが高すぎるよ。
《で、隊長の肩にかかってるキャタピラみたいなのは何なの?》
俺はすがるように視聴者のコメントを拾った。これは逃げじゃない。隊長のデザインを語れるチャンス到来なんだ!
「それはさ、その、隊長って事が一目で分かるようにしたんだよな。ほら紫ってのは最高位の色だから」
コメント欄が静まる。
あれ、俺まずいこと言った? 伝わらなかったなら説明した方がいいのかも。
「あれだよ、冠位十二階な」
《?!》
《久しぶりに聞いたわwww》
《そのタスキ階級章だったんか😄》
なにやら笑いが取れた。チャット欄が盛り上がる。
《んじゃ隊長が背中に背負ってるヘラは何なのよ?》
正直あまり考えずに描いた突起物だ。特殊部隊らしくて格好いいからと付け足したパーツ。
「こっ、これはさ、サイバー部隊の、たぶん、秘密兵器だよ」
《銃にしちゃラッパ型すぎひん》
《途中で銃身終わってるし😂》
《てか掃除機みたいだがw》
一転ツッコミの嵐。バカにされる空気のいたたまれなさを知る。隊長はどう思っているんだろう。そちらを見ると自らのパーツを確認しつつ、コメントにうなずいていた。
俺は急に疎外感を受けた。
――ちぇっ、格好良くしたつもりだったけど、チャット欄に同意かよ……
隊長への好感度が上がって来ていた分、今はなおさら遠くに見える。
(2994/3000字以内)