エンドオブナイトルーティーン 双子姉妹編
毛布をタテ長に丸め、布団の端に置く。反対端には抱き枕をセット。あとは真ん中に自分が入り、かけ布団をかける。そして消灯。
肉体面でやることは以上だ。
これで安眠のための準備は整った。お次は脳をちょちょいと働かせる。
――ねえ、ねえってば。聞こえる?
――こいつ、もう寝ちゃってるんじゃないの?
両隣に双子の姉妹が "発現" する。毛布があったであろう場所から温もりが、抱き枕があったであろう場所からいい匂いが、する。している。
――今日も忙しかったもんね。お話できなくても、しかたないか……。←控え目たれ目黒髪ロングお淑やか妹
まあ、無職なんだけどね。……っと、イマジネイションが霧散するところだったぜ。←双子とは家が隣同士の幼馴染
――こいつはニートなんだから、忙しいわけないでしょ。←世話焼き押しに激ザコ金髪ツインテ姉
まずい、連想した事柄が発現したはずの彼女らに伝染している。このままでは現実が見えてしまい、枕を濡らしかねない。好きな人に振られる以外で泣かないって決めたし。泣かんぞ絶対に。
双子姉(毛布側)に背を向け、双子妹(抱き枕側)と目を合わせる。もちろんまぶたは閉じたまま心の中で、だ。
このようにして発現の継続ができたなら次のステップだ。カギかっこをつけさせる。
――カギかっこを、つける?
――はぁ、説明しなさいよ
自分の中にはまだ、『双子姉妹と添い寝する妄想をしている』という意識がある。しかし最終的な到達点はそこではない。『双子姉妹に寝かしつけられている』という "実感" を得なければならない。
そう、このように。
うーん、「わたしには難しいは」なしだなぁ…「…って、なにこれ!?」「声が出ているとでも言うの!?」
「すごーい! わたし、話してる!」
ブハハハハハハハハハハ!!!!!!!
フッ。このくらいお手のものさ。
さて、今宵も可憐なる双子姉妹に寝かしつけてもらうとするか、な。
「いや、ちょっと待ちなさいよ。これって結局、想像上の人格をあたかも実際にいる存在かのように、わざと『錯覚』を起こしているのよね? もっと言うとただの思い込み。イタい妄想じゃない。
自慰行為と何が違うわけ? そんなことに勝手に巻き込まないでもらえる?
あたしはアンタの妄想が創りだしたモノだけど、あたしという妄想をするのには今まで出会った人物から特徴を抜き出してジグソーパズルのように組み合わせるわけよね。創作物のキャラっていうのはね、元をたどれば実在の人物の影があるの。物語ってそういうものでしょ。
あんたはこんな妄想しておいて、明日からどんな顔して人と会うの? どんな気持ちで友達と遊ぶの? 街ゆく人を見て、何を思うの? ほんとにキモ――
うううるるるるるるせええええええええじょばじょぼぼぼぼぼぼべべべべっべべべべっべべべべ
てめえ、ツラ貸せよ……なあおい、オイ! 催眠音声でそんなクソっったれな正論吐く奴がいねえだろうがッ! 寝落ち通話で相手の嫌なところ急に話始める奴いねえだろうがよッッ! んなもんお互い眠れんだろうっがあああああああああ!!!!
してやらぁ……教育してやらぁ……
「ちょっ!? 何を」するのよ! きゃあっ。存在が、薄れて……
てめえをおっとりお姉ちゃんにしてやる。一生甘やかしてくれてよしよしもしてくれて全肯定してくれるだけの存在にしてやらあああああああ
――わかったわ。いいのよ、あたしはアンタが創りだしたモノ。だから、アンタの本当の気持ちだって――
うるせええええええ甘やかせえええええええええぇぇぇぇぇぇ………………
あれ、何してたんだっけ。
「うん? どうかした?」←控え目たれ目黒髪ロングお淑やか妹
「きっと疲れてるのよ。寝かしてあげましょう」←めちゃ甘マジ全肯定癒しふかふかお姉ちゃん
うん。つかれたんだ。好きな人は今ごろ、知らない人たちに囲まれているんだ。あんなの見たら、何も手につかないよ。
大人はみんな裏切るんだ。あんな最低な宣言をした親が信じられない。そんな人たちがいる社会になんて、でたく……zzz……
目を覚ますと昼前だった。暑かったのか、抱き枕も丸めた毛布も遠くに蹴とばしていた。
夢をみたんだ。巨大なカマキリに追われていて、振り返り、立ち向かい、両断された夢。
そういえば、起きるのはひとりでできるんだなと、気づいた。
窓越しの空は、澄んでいた。