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海外で体験した怖い話

内容
 町田さんがアフリカに単身赴任していた時に体験した話だ。
 赤道直下の高原地帯を目指しながら赤茶色の地平線を大型のジープで揺られること五時間。取り払った窓からは絶えず熱風と砂塵が吹き込み、剥き出しのスプリングは草食動物の死体を乗り上げるたびに女性の悲鳴のような音を立てた。
「shit!」
 ぬかるんだ赤土に車がはまり、ジャッキで車体を上げていた時だ。子供のものと思われるもげた腕を咥えた野犬が唸り声を発しながら車体の下に潜り込んだ。
 「事件か?」と町田さんが助手席に座っていた男に尋ねると、男は顎をしゃくるようにして二、三十メートルほど離れた林を指し示した。
 おそるおそる近づいていくと緑に覆われた小さな教会があった。おそらく略奪と襲撃が繰り返されたであろうサーモンピンク色の壁には真っ黒な煤と銃痕が残っていた。屋根がすっぽりと抜け落ちた青空の下に子供の死体が二つ重なっている。ほぼミイラ化していたが犬が咥えていた腕はどちらのものかわからないほど動物に食い荒らされていた。
 その夜、町田さんは眠れず、蝋燭を何本も立てながら闇を凌いでいると豚ほどの大きさの回転草が転がってくるのが見えた。音も立てず、ゆっくりとバク転でもしているような動きが目前に現れた時、町田さんは徐に蝋燭で十字を切ってしまったという。無数の人間の髪と手足で組まれたような黒い集合体の中に胡乱とした目が点在していたのだ。その一つと目が合った。
 翌週、仕事に区切りをつけた町田さんは滞在している村の施術師と村人たちと共に教会へ向かった。精霊や祖先の力を借りて死者の魂を弔う為だ。悪臭の漂う教会にまだ子供たちはいた。土の中で子供たちは石を抱えるようにして埋葬された。なぜ屈葬にするのか尋ねると死者の魂が浮いてこないようにするのだという。
 その日の夜、町田さんが小屋の外で煙草を吸っていると茂みの中を何かが走り回る気配がした。ばらばらと小枝を揺らす音がする。懐中電灯を頼りにしばらく音のする方向を追ってみると茂みの合間から明滅する白い灯りが見えた。やがてそれは同心円状にゆっくりと広がると町田さんの周りを囲んだ。疑心暗鬼や怒りに満ちた目がモールス信号のように瞬きをする。
 翌朝、その話を村長にしたところ「石が足りなかったのだ」と言われた。弔われていない魂は、至るところにいるのだから。

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