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非デザイナーによる体験設計 - 人は誰しもデザイナーではないか説 -

私がサービスデザイナーになるずっと前、今振り返ると自然と"体験設計"に携わることに夢中だった。
それはデジタル、リアル問わず、あらゆる対象物に対して受け手のことを考えた体験設計だった。
そこで今回は非デザイナーだった頃の思考法を振り返り、デザイナーとして学んだ思考法との比較をしてみる。

結論から言うと、肩書きがデザイナーであるかに問わず、デザイン思考の基本ステップを辿った体験設計をしていた。特に、相手の「モノとの出会い」をどうすれば印象的でワクワクさせられるか、トコトン突き詰めた結果、各ステップを着実に踏んでいた。

例えば、友人の誕生祝いの際、友人が望むモノを届けるだけでは5段階評価で3、つまり期待値通りの体験を届けたに過ぎないと捉える。これではいくら相手が喜ぼうとも体験設計としては物足りない。
そこで私の場合、モノ+αの体験を添えることで、4 - 5の評価に値すると無意識に考え実行していた。
そこで今回は、非デザイナーであった私の体験設計を考察し、デザイン思考のステップとの比較をまとめる。

非デザイナーの体験設計

自分が無意識に実行していたことを振り返ると、下記のステップを踏んでいたと思う。

  1. 【相手のホンネを獲得】
    普段の言動から、相手の価値観や感情の傾向を読み取る

  2. 【相手のタテマエから発散】
    相手が言語化できるニーズを基に、派生したニーズを考える

  3. 【ホンネとタテマエを実現する手段の検討+提供】
    1と2を組み合わせることで、普遍的なモノを「その人だけのモノ」にできる体験にする方法を検討する

🌟相手のホンネを獲得

ここは日常会話で多くの人が無意識に実践しているフェーズであり、人間関係を形成するにはインフラになる部分である。
もちろん、まちを構成するインフラと同じで一朝一夕に獲得できることではなく数ヶ月、数年かけて相互の暗黙知として形成される。
したがって、サービスデザイナーがリサーチ計画で「ユーザーのニーズを把握するために、2週間確保します」と提案する場面はよく見るが、"冷静に考えて"そんな短期間で相手のホンネを知り尽くすことは不可能に近い。
非デザイナーだった自分は、友人との交友関係を深める上で自然とステップ1を達成できた。

🌟相手のタテマエから発散

相手のことが徐々に掴めてきた中で、相手から欲しいものを伝えられる時がある。例えば、誕生日や何か達成した時のお祝いで言ったこと、言われたことは誰しもあるだろう。
そうした相手から明確なWANTを提示されたとき、考えるべきことは2点ある。

「WANTを達成することで、何を実現したいのか」
「相手が真に実現したいことは、WANTに応えるだけでいいのか」

おそらく、多くの人は前者についてはよく考えると思う。名著『ドリルを売るには穴を売れ』の思考と同じで、手段を通して相手は何をしたいのかを考えることを指す。ただ後者については深く考えている人は少ないのではなかろうか。
例えば、水筒が欲しいというケースを考える。
推測として、相手は学校や会社で飲み物を飲む機会があるが毎回ペットボトルを購入して「経済的ではない」「環境に悪い」などの要因に課題を感じ、水筒を持ち歩くライフスタイルへのチェンジを実現したいかもしれない。
ここまでが前者の推測だが、もし水筒を提供できたことで相手は課題解決できたと言えるだろうか。

  • 「夏に使うなら水筒の中に氷を入れたいはず、、
     手間をかけずに冷たい飲み物を飲めるようにできるだろうか?

  • 「いつものお出かけ用バッグは水筒を入れることを想定したサイズじゃな   いはず、、
     水筒の持ち歩きをラクにすることはできるだろうか?

  • 「皿洗い用スポンジじゃ洗いづらいはず、、
     日頃の水筒のメンテナンスをラクにすることはできないだろうか?

少し考えるだけで、相手がWANTを真に実現するために必要な要素に気づくことができると思う。
こうした観点で考えるときのTipsとしてはこの2点がある。

- 相手が欲しいモノを所有しただけで100%満足するという前提を捨てること
相手がすでに所有した未来を想像して満足しているかどうか考えること

この2点を抑えるだけで120%の体験を届けることに、近づけるはずだ。

🌟ホンネとタテマエを実現する手段の検討+提供

ここまで来たらあとは簡単だ。
2の「タテマエの発散」で気づいた+αの体験は身近なモノでどう実現できるか。水筒の例を使うと、例えばこんなもので実現できる。

  • 手間をかけずに冷たい飲み物を飲めるようにできるだろうか?

    • 水筒用の細長い氷を作れる製氷器

  • 持ち歩きをラクにすることはできるだろうか?

    • どんなバッグにでも引っ掛けられるグッズ

  • 日頃の水筒のメンテナンスをラクにすることはできないだろうか?

    • 水筒洗浄用の細長いスポンジ

「確かに、そんなグッズがあった!」と思う方もいるのではないだろうか。今日、Amazonや100円均一はじめ便利グッズが簡単に、安く手に入るため、アイデアを思いつけば体験価値のアドオンはすぐ実行できる。したがって、ただタテマエを発散する過程を持つだけで、多くの人は相手の期待を超えた体験設計は容易に実現できる。

デザイナーの体験設計との比較

ここまで非デザイナーだった私が、どういう思考フローを辿って相手をワクワクさせる体験を作ってきたかを記した。ここまで読んで気づいた方もいるはずだ。

「非デザイナーでも基本的なデザイン思考のステップで考えているのでは?」

では確かめてみよう。デザイン思考の5段階を前述の非デザイナーの3ステップに当てはめてみると、下記のようになると思う。

  1. 相手のホンネを獲得
    →  Emphasize

  2. 相手のタテマエから発散
    → Define + Ideate

  3. ホンネとタテマエを実現する手段の検討+提供
    → Prototype + Test

例えばDefineで言えば、「手間をかけずに冷たい飲み物を飲めるようにできるだろうか?」と置いていたものは、まさしくHow Might Weを置いていると等しい。結局、相手の真の解決策を考えるには必須の考え方ということだ。

今回、非デザイナーとデザイナーの2軸で比較して、体験設計の考え方の違いをまとめたが、結局タイトルにあるように「デザイン思考は後天的に身につけなくても、相手をワクワクさせたい時、自然と人は実行しているのではないか」という結論を出せると思う。

こうなるとデザイナーは何ができるのだろうかと思うが、その点に非デザイナーを気づかせることも、デザイナーの重要な役割ではないかと感じた。



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