パリパリもちもち優しさの味 秋田の「ミルク焼き」
出張で出かけた秋田で、偶然見かけたお店に吸い寄せられた。
「元祖 ミルク焼き」
濃紺の布地に赤い文字の「のれん」。
くっきりした文字が、力強く訴えかけてくる。
「ミルク焼き」とは、いったい何なのか。
しかも「元祖」と書いてある。
なんとなく想像したのは、夏祭りの屋台に出ているような、中にあんこやカスタードクリームが入っている今川焼きのような甘いお菓子…。
だが、のれんの力強さが、何か違う雰囲気も漂わせている。
確かめてみたくなり、お店に入ってみた。
店内に、雑誌や新聞の記事が貼られている。
それを見ると、小麦粉の焼いた皮にあんこが入ったお菓子だという。
1個120。
注文すると、目の前でつくってくれて、温かい「ミルク焼き」を出してくれた。
「ミルク焼」の刻印が刻まれた小判のような形状。
白い皮は薄く、中にあんこが入っているのが透けて見える。
まずは一口。
ほっくりと温かい粒あんがぎっしり。
薄皮があんことしっとり混ざり合い、なんとも言えないもっちりした一体感で口の中に広がっていく。
ところが、皮の切れ端のところがパリッとしている。
「もちもち」の中に時折味わえる「パリパリ」が、同じお菓子を違う角度から楽しませてくれる。
適度な「おこげ」が、香ばしさを加味しているのもいい。
あんこは適度な甘さ。
そして、水分量も絶妙だ。
ほくほくしすぎず、薄皮からムニュッっとはみ出す水々しい食感。
舌触りが柔らかく、「こしあん」派にとっても、この「つぶあん」は皮が気にならない。
口に入れる前は、たいやきのような味を想像していたが、皮とあんこの対比がまったく違う。肌感覚では、「ミルク焼き」は、あんこ9:1皮 ぐらいの対比だ。
小麦の薄皮そのものも、部分的に微妙に厚い薄いがあり、一口ごとにあんことの比率が変わって最後まで楽しめる。
ひととき満足していると、ふと、気がついた。
ところで、なぜ「ミルク」なの?
女性の店員さんに尋ねてみる。
「おじいちゃんが、白いからミルク焼という名前をつけたんです。でも、牛乳は入ってないんですよ」
なんと、店員さんのおじいさんが始めたお菓子だという。
「当時は牛乳が貴重だった時代だったので」
改めて壁の新聞記事を読むと、戦後しばらくしてから登場したお菓子らしい。
牛乳は入っていないのにつけられた名前。
貧しかった時代。
でもみんなに喜んでほしい。
美味しいミルクの気分を味わってほしい。
ミルクに対するあこがれの気持ちも込めてつけた名前だったのだろうか。
「ミルク焼き」
なんと優しい、懐かしい響きなのだろう。