『孤独の印』オリジナル③
オレンジ色の、川のせせらぎに、呼び声が聞こえます。
「レメクさん、レメクさん、こっちですよ」
チラの声です。レメクは喜んで顔を上げると、西日に照らされた笑顔を見つけました。橙色の暑い光はチラのシワの一本一本を、無慈悲に浮かび上がらせましたけれど、かえってそれが彼女の、命の力強さを伝えるようで、レメクは深く感動しました。レメクは心を込めて、
「チラ」
彼女の名前を呼びました。
「レメクさん、レメクさん、見て下さい。今日は素晴らしいものを見つけたんですよ」
まるで子どものように手を取って、チラは歩き出しました。
彼はくすりと笑いました。
丸太を引くレメク、レメクを引くチラ。それならチラは何に引かれているのだろう。
しばらく歩くと、人の頭よりも少し大きいくらいの桃が、川岸に留まって、夕日に影を作っていました。チラが振り向いて言いました。
「レメクさん、今日は果物が食べられますよ。果物なんていつ振りでしょうか。今日はきっと世界中で素晴らしい何かが起きていて、わたし達のところにも少し分け前がやってきたんですよ」
チラは桃を眺めていました。レメクは一緒にいた時間の長さを感じました。
「さあ、これを持ち帰って食事にしましょう」
チラはそういうと、桃を手桶にひょいと持ち上げて運んでいきました。
レメクの懐では、たくさんの虫達がうごめいていました。