『孤独の印』オリジナル④

その晩の食事はとても豪勢なものでした。炉端の部屋を、満月が柔らかく照らします。囲炉裏に揺れる火が、二人の顔に影を落とします。レメクの取ってきた幼虫は、大きいものと小さいものに分けられました。大きなものは囲炉裏で直火焼きにしました。小さな幼虫は刻んだ生姜と一緒にお吸い物にして頂きました。
大きな虫の直火焼き。
鼻を駆け上る炭火の薫り、サクサクの食感、モチモチした歯ごたえは、まるで天国の食卓の先触れのようです。一匹は丸かじりで、二匹目は二口で。三匹目は半生で食べたりしました。トロトロに暖かく、クリーミーな食感が楽しめます。
お吸い物の、器を近づけるだけで香り立つ黄金色の生姜には、気高い品格が感じられて、二人は互いの目を見合いました。ピリリと響く温かみが喉を通ります。お腹のなかまで暖かです。
 食後には、チラの運んだ桃が食べられました。チラは小刀で、桃を器用に切り分けると、甘い果実の薫りが広がって、互いに笑顔を見つめ合いました。レメクに渡された柔らかな桃は、指の力に薄っすらと茶色い痕をつけながら、彼の右手の内外に果汁を滴らせました。それを口元に運ぶと、彼の右手から、部屋中を満たしては身体を溶かす甘美が漂って鼻腔を満たしました。彼はそっと瞳を閉じました。ゆっくりと、優しく開かれる唇が果実に触れるやいなや、前歯が唇に包まれてそっと、小さく、いたずらに果実をかじりました。鼻から漏れる溜め息と一緒に、もはや世界の内外のどこにも労苦はありませんでした。レメクがチラの左手を見ると、小さな果実は彼女に食べられるのを待っているようだと思いました。チラの手は切り分けた時に滴った果汁でベトベトに、月の光に照らされています。五つの指に包まれた果実が半分、彼女の小さな唇に甘くかじられると、力を失って、彼女の手のひらの中に滑り落ちました。チラの口の端から果実の跡がゆっくり流れました。二人は互いの目を見て、驚いて、くだけて笑いました。
 土ぼこりが月に照らされて、白く舞い踊っていました。

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