文学賞受賞のお知らせ

皆様いつも応援いただきありがとうございます。

このたび『名もなきアンサンブル』で第19回北区内田康夫ミステリー文学賞審査員特別賞を受賞しました。

受賞のことば、ならびに受賞作は、下記URLからご覧ください。

https://j-nbooks.jp/sp/novel/original.php?oKey=113

舞台俳優の光と闇を描いた本作。

――死んでくれてありがとう。

堀内の台詞に込められた「生きづらさ」が本作のテーマです。


なにをやってもうまくいかない人生だった。

こんな世の中で、どう生きていくのが正解だったのだろう。

気がつけば、過去も未来も、良いことは一度もなかった。

命を削って日夜働いて、誰かに感謝されるわけでもなく働いて、栄養ドリンクを片手に冷たい菓子パンをかじりながら働いて。

自分はなにをやってきたんだと思う。

その日、そのとき、その場を取り繕い、つまり自分は「なに」になりたかったのかわからなくなってしまった。

金を稼ぐやつが成功者なんだと周りは言う。

金のために生きたいわけじゃない。でも生きるためには金が必要だ。家賃も光熱費も税金も服も食事も水も生活のすべてが金でできている。金を稼ぐことがすべてなんだと、この暗い世界は、容赦なく殴ってくる。もうとっくに死んでいてもおかしくない身体を蹴り上げて、まだ生きられるだろうと叱咤してくる。

鏡に映る自分はひどく醜い。これが売れない役者の顔だ。

最初から役者なんて綺麗なものを目指さなければよかった。

スポットライトの当たらない影の舞台で、名もなきアンサンブルは今日も主役のために死んでいく。


歪んでいるのは、堀内か、八神か。

これはひとつのフィクションという文学なので、たくさん批評していただければ幸いです。

授賞式でもお話させていただきましたが、凝ったトリックも、読み解くのが難しい言葉も、一切使っておりません。この生きづらい世の中で、一緒に苦しんでいける作品をめざしました。受賞作の中でも異質だと自分でも思っております。初めての文学賞応募でこのような栄えある賞をいただき身に余る光栄です。今後とも自分らしい作品を書いていきたいと思います。

最後になりましたが、選考に携わってくださった皆様、作家・青木杏樹を応援してくださる皆様に心より御礼申し上げます。

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