赤い涙
大阪の会社に就職して、社員寮で生活する中、社食は有難い存在でした。そこは毎回メニューが決まっていて2人の調理師のおばちゃんが腕をふるってくれていました。
ある日、天ぷらが出てきた時に端の方に朱色がかったものが衣に包まれていて、強い存在感を醸し出していました。おばちゃんに聞いてみると「これは紅しょうがの天ぷらやねん」とのこと。
初めて目にしたそれを口にすると、生姜の辛さと衣の甘みでなんとも言えないおいしさで、これが大阪の味なのかと田舎者の私は感動すら覚えていました。
その後天ぷらがメニューにあるたびに紅しょうがの天ぷらが楽しみになりました。
そして数年後、私は県外へ引っ越すのを機に会社を辞めることに。退社する数日前に社食へ行くと天ぷらが並べられていて、紅しょうがの天ぷらも変わらずありました。
それを手にしながら「紅しょうがの天ぷら好きやったな、これ大阪に来て初めて食べたわ」と、おばちゃんに話しかけました。
するとおばちゃんはこう言いました。
「紅しょうがの天ぷらは大阪だけやから、もう食べられへんなぁ」
席に座り、一口めに紅しょうがの天ぷらを食べると、うまく飲み込めなくて涙が出そうになった。いつものより辛く感じたせいだろうか。
それ以来、紅しょうがの天ぷらは食べていません。あれは大阪の味だから、大阪でまた食べたい。