犬猫のお薬辞典Vol.2〜心臓の薬編〜
獣医さんにもらったお薬、どんな作用があって、どんな副作用があるのか、詳しく知りたいなと思ったことはないですか?
インターネットで調べると、添付文書のような堅苦しい説明書きしかヒットしないし、効能書きを見てもナンノコッチャ・・・?って感じで結局よく分からない。
そんな飼い主さんのために、「獣医さんからもらった薬が分かる本」を作りました。
Vol.2は「心臓病のお薬」です。
犬は僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症、猫は肥大型心筋症の発生が多いです。このnoteでは、これらの心臓病で処方されることが多い薬を、分かりやすく解説していきます。
その他のお薬辞典は以下のマガジンからご参照ください。
このnoteを作った理由は、飼い主さんのアドヒアランスを高めてもらうためです。
先日、以下のようなツイートをしました。
アドヒアランスとは、簡単に言うと「飼い主の治療に対する理解と積極性」です。
獣医師にすべてお任せするのではなく、飼い主さん自身がペットの病気に対して深く理解し、治療に積極的に関わることを、「アドヒアランスが高い」と表現します。
愛犬や愛猫の治療は、基本的にアドヒアランスが高い飼い主さんほどうまくいきます。
だからこそ、私のnoteでは、飼い主さんが病気や治療を理解するための材料を提供することを目標にしているのです。
アドヒアランスを高める上で非常に重要な課題の1つが、もらった薬を理解すること。
正直、一般的な一次病院では、獣医師がインフォームドコンセントの過程で薬の解説を行う時間までは確保できないことが多く、できたとしても浅く概要を説明する程度で終わってしまうことがほとんどです。
このnoteを辞書代わりに持っておいていただくことで、いざ動物病院でお薬を処方されたときに、
どんな目的で処方されたお薬なのか
どんな仕組みで効果を発揮するのか
今、愛犬愛猫の体の中では何が起きていて、それを薬でどう改善しようとしているのか
服用中、どんなことに気をつければよいのか
など、知りたいこと(+α)が分かるようになります。
このnoteの特徴
薬の効能と、効果を発揮する仕組みを、飼い主さんにも分かるように噛み砕いて解説しています。
できる限り詳しく、かつ一般の方でも理解が追いつく程度に内容を厳選し、時に図解も加えています。
副作用や注意事項の書き方も少し工夫しました。どの薬にも副作用があるわけですが、「これは特に注意しなければいけないな」という副作用と、「こんな副作用、実際は見たことない」という稀な副作用があります。
このnoteでは、添付文書の丸写しはしておりません。臨床現場で働く獣医師がよく遭遇する副作用だけをピックアップし、実際に何に気をつければいいのか、よく分かるようにしています。
※稀な副作用が起こる可能性は0ではないので、「このnoteで触れていない副作用は起きない」という意味ではありません。その点は勘違いしないようにしてください。
※順次お薬の種類は追加していく予定です。リクエストがあればTwitterのDMやnoteのコメントで教えてください。(購入者は追記分も読むことができます。)
※このnoteは「犬猫のお薬辞典シリーズ」の第2弾です。
※獣医学生さんや動物看護師さんのお勉強にも役立つかと思います。
※返金保証も付けております。内容に満足できなかった方には、全額返金致しますのでご安心ください(note運営事務局の審査が入る点はご了承ください)。
心臓病治療のイメージ
心臓疾患で用いる薬にはいくつか種類がありますが、それぞれに役割があります。
まずはその全体的なイメージを掴みましょう。
心臓は、全身に血液を送るためのポンプのような臓器です。
心臓病に罹ると、そのポンプの機能が低下します。あらゆる方法でポンプ機能を補助し、心臓を楽させてあげる必要があるのです。
もしも心臓がアップアップになって限界を超えてしまうと、あちこちの血管で血液が渋滞します。うっ滞した血液が肺で漏れ出すと、溺れたような状態になります(いわゆる心臓性肺水腫)。心臓病の代表的な死因の1つです。
心臓病治療の再重要課題は、「いかに血液渋滞を避けるか」です。
交通渋滞に例えると分かりやすいでしょう。
心臓病の治療は、高速道路の交通渋滞を緩和するようなイメージをすると分かりやすいです。
以下の図を使って解説します。
まず、心臓病の治療で最も重要な薬が強心剤です。
強心剤は心臓のポンプ機能を強める作用があります。
交通渋滞に例えると、渋滞緩和のために、ETCレーンを増やすようなイメージですね。ETCレーンを増やすことで、車を送り出せる量が増えますから、どんどん車が進んで渋滞が緩和します。
心臓の拍動を強くすることによって、一回で送り出すことができる血液量を増やすのです。
次に、血管拡張薬。
道路の車線を増やすことで渋滞を緩和します。
血管を広げると血液を送り出しやすくなるので、心臓の負担を減らすことができます。
結果として、心臓を長持ちさせることができるわけです。
そして、利尿薬。
心臓病が進行した場合、利尿薬でおしっこの量を増やす作戦に出ます。
利尿薬は、走っている車自体を、高速道路から降ろしてやるようなイメージです。高速道路を走る車の数が減れば、渋滞は緩和されますよね?
腎臓から尿として血液を体外へ出すことにより、血流の渋滞を取り除きます。
以上がざっくりとした心臓病治療薬のイメージです。
正直、ここまで理解できれば、飼い主さんの治療への理解度としては100点満点です。
もっと詳しく知りたい勉強熱心な飼い主さんのために、各治療薬の概要を解説していきます。
ピモベンダン(製品名:ベトメディン、ピモベハート)
もはやこれなしで心臓病の治療は考えられない、獣医師が頼りっぱなしのお薬です。分類としては強心薬です。
簡単にいうと、弱った心臓のポンプ機能を「良い感じに」サポートしてくれる薬です。
以前はジゴキシンという、植物由来の強心薬を使っていましたが、危険な不整脈を誘発するリスクがあったことから、ピモベンダン登場以来はほとんど出番が無くなりました。
ピモベンダンはとてもよくできたお薬なので、ジゴキシンを使う理由が無くなったのです。
犬の僧帽弁閉鎖不全症では、ACVIMステージB2を迎えた段階でピモベンダンの使用を開始することが勧められています。
最近では、猫の肥大型心筋症にも適用されるようになりました。
仕組み
ピモベンダンの作用機序はとっても難しいので、どこまで解説しようか迷いましたが、できるだけ詳しく解説しましょう。
ピモベンダンの作用機序を理解するためには、心臓がどのようにして収縮しているのか知る必要があります。
心臓は特殊な筋細胞で構成された「筋肉」です。
筋肉の収縮は、筋肉の細胞1つ1つが縮むことによって起こります。
筋肉の細胞の中には筋原繊維という繊維が含まれます。神経細胞から「収縮しなさい!」という信号が来ると、筋細胞に電気信号が走り、筋原繊維が縮む仕組みです。
心臓の拍動の度に、心筋細胞内では以下の図のようなことが起こります。
筋細胞に電気信号が走る
筋細胞内の「筋小胞体」というカルシウムの袋から、一気にカルシウムが放出され、細胞内のカルシウム濃度が上昇する
筋原線維にカルシウムが触れると、筋原線維が縮む(⇒心筋が収縮)
カルシウムは筋小胞体の中へと回収され、次の収縮で再利用される
以上が心筋収縮のざっくりとした流れです。
このサイクルを1分間に100回前後、しかも生きている限りずーっと繰り返しているのです(心筋は疲れ知らずの最強の筋肉なのです!)。
ピモベンダンは2つの方法で心筋の収縮を増強します。
まず1つ目に、「筋原線維のカルシウム感度を敏感にする作用」。
筋原線維がカルシウムに敏感に反応し、勢いよく縮むようになるため、心筋の収縮力が上昇するのです。
2つ目に、筋小胞体のカルシウム回収効率を高めます。
筋小胞体にカルシウムを取り込むポンプをよく働かせることで、収縮が終わったあとに効率よくカルシウムを回収します。
すると、筋小胞体内のカルシウムが増え、次に電気信号が走ったときに勢いよくカルシウムが放出されます。
ピモベンダンは、
カルシウムの放出量を増やす
カルシウムに対する筋原線維の感度を上げる
・・・という、ダブルの効果で心収縮力を強くするわけです。
副作用・注意事項
ピモベンダンは比較的安全性の高いお薬でして、通常は0.2mg/kgという量で開始しますが、病態が進行すると0.5mg/kg程度まで増やすこともあります。
また、1日2回の投薬が通常ですが、1日3回に増やすこともあります。
製品名をベトメディンと言いますが、ベトメディンは犬が美味しく食べられるように、バニラ味がつけてあります。
これが結構美味しいらしく、たまに誤食事件が発生します。
薬棚を漁って、薬の袋をガジガジに破って大量に食べてしまうのです。
さすがに通常の10倍量20倍量を食べてしまうと、体に悪影響を与える可能性があるので、すぐに動物病院へ連れていきましょう。
くれぐれも薬の管理には気をつけてください。
ピモベンダンには、弱いながら血管拡張作用もあります。
血圧があまりにも低い動物で使用すると、血管が広がって更に血圧が下がってしまうリスクがあると言われています。
投薬時間はできる限り空腹時のほうが良いとされています。
空っぽの胃に投薬したほうが、吸収率がよく、効果が高まるのです。
可能な限り、食餌30分前に投薬できるとよいですね。
ベトメディン以外に、ピモベハートなどのジェネリック薬品も発売されていますが、できる限りベトメディンをチョイスするのが好ましいです。
投薬濃度が一緒でも、やはりジェネリックは先発品と比べて少し効果が劣る印象を持っています。
ただし、ベトメディンは少し値段が高いので、大型犬など体重が重い子にはジェネリック薬品を検討することがあります。
このあたりはかかりつけ医と相談してみてください。
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