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胃ろうチューブへの抵抗感について考える

犬猫にも胃瘻チューブがあります。

胃ろうチューブとは、胃の中へ直接、ごはんやお水、お薬を入れることのできるチューブのこと。

全身麻酔をかけて、内視鏡を使って設置します。

例えば、口の中の癌や、慢性疾患による食欲不振、巨大食道症などの食道疾患などで、口からごはんが食べられない子に対して、設置を検討することが多いですね。

でも、胃ろうチューブって、飼い主さんにとってはかなり抵抗感があるようですね。

疾患によりますが、癌などの治らない病気の子に適用することが多いため、

  • チューブを付けてまで生かしたくない

  • それなら自然に最期を看取りたい

そんなふうにおっしゃる方が大半です。

でも、獣医師の立場からすると、むしろ胃ろうチューブを入れた方が、飼い主さんも犬猫も幸せに過ごせるんじゃないかな、ウィンウィンなのにな…と
思う瞬間があります。

今日は胃ろうチューブについて、少し話してみたいと思います。

胃ろうへの抵抗感の原因は?

一体何が飼い主さんの抵抗感に繋がっているのか考えてみると、
恐らく「延命治療」のイメージが強いのではないかと思います。

人間で胃瘻チューブを入れるシーンを想像し、

寝たきり状態になった人が、自分で食べ物や飲み物を飲みこむことができず、外からチューブで流動食を入れられて無理やり生かされている

そんな少しネガティブなイメージがあるのではないでしょうか。

胃瘻チューブは延命治療か?

胃瘻チューブは果たして延命治療なのでしょうか?

そもそも延命治療の定義って何でしょうか。

実は、私達が行っている積極的な治療も消極的な対症療法も、すべては詰まるところ延命治療です。

例えば、愛猫がガンを患ったとします。

積極的に抗がん剤治療や外科手術を行えば、それは延命が期待できますから、立派な延命治療ですね。

では、そのような治療を諦めたとして、ごはんを次第に食べなくなったとします。

体力がなくなってきて、弱々しくなってきた愛猫を見て、飼い主さんも獣医師もなんとかしてごはんを食べさせようとします。

流動食にしてみたり、食欲増進剤を使ってみたり。
それも、言ってしまえば延命治療てす。

延命治療のなかに、
大きな延命効果や完全治癒が期待できるものと、
大きな延命は期待できないものがあるだけであって、
すべての治療や看護は、1日でも長く生きてもらうために行うものです。

そうなると、胃瘻チューブを入れようが入れまいが、食餌を与えて栄養をとってもらうことは、必要なわけです。(それすらやらない方も、もちろん中にはいらっしゃいますが。)

胃瘻チューブが延命治療にあたるかどうか。

私自身は、この問に対する答え自体にあまり価値が無いと考えています。

だって、ペットに施すことのほとんどは、そもそも延命治療なのですから

もっと肝心な部分を忘れていないでしょうか。
それは多くの飼い主さんが望んでいる、QOL(生活の質)の改善です。

胃瘻チューブの有り難みを知ってほしい

さて、「延命治療はしたくない」という希望をもっている飼い主さんが、同時にもう一つよくおっしゃるのは、「楽に余生を過ごさせてあげたい」といことです。

それすなわち、QOL(生活の質)の改善です。

みんな、今まで素敵な時間を届けてくれた愛するペットに対して共通して願うことは唯一つ。

「苦しくなく余生を過ごさせてあげたい」ということでしょう。

それならば、なおのこと胃瘻チューブの力を借りる選択肢も有りだと思っています。

特に初めて動物を飼う飼い主さんの傾向として、ありがちなのですが、

どんどん病気が進行し、体力が落ちていって食べられなくなる過程をイメージできていない飼い主さんが多いです。

強制給餌を行ったり、スポイトでお水を与えたり、毎日水分補給のために皮下点滴通院をしたり・・・

こういった闘病生活は、飼い主さんとっても動物にとっても、かなりしんどいです。

長年培ってきたペットとの信頼関係が損なわれてしまって、思いが届かず虚しい思いをされる方もいらっしゃいます。

介護ノイローゼ状態になってしまわれる方も少なくありません。

胃瘻チューブがあれば、本人が食欲が無くて食べられないときや、食べたいのにお口を使って食べられない時に、簡単に栄養を摂ることができます。

それどころか、苦いお薬や脱水を防ぐための水分摂取だって、いとも簡単にできてしまうのです。


例えば、病気の影響で強い吐き気を催したとします。

もちろん食べられないし、吐き気が止まらずしんどい思いをしますので、吐き気止めを処方されることでしょう。

吐き気を催している動物に、薬を飲ませるのがどれだけ大変なことか、想像できますか?

動物病院へ連れてきてくれれば、皮下注射で投薬することができますが、これが毎日のように続く場合は?


こんな事例はいくらでもあります。

胃瘻チューブを入れても走れます

「胃瘻チューブ=寝たきり」みたいな想像をしている方が、中にはいらっしゃるかもしれません。

胃瘻チューブって、そんなたいそうな装置ではありません。

お腹から出たチューブを収納するために、お洋服を着なくてはいけませんが、変わることといったらそのくらいです。

あとは今まで通りの生活です。

走る元気があれば走れます。
チューブが入っているからといって必ずそこから給餌しなくてはいけないわけではなくて、食べる気力があるならば、お口から食べることもできます。

胃瘻チューブを入れたほうがいい事例

「食べられなくなったら、その子の寿命だと思って、強制給餌もしないで見守ります。」と言われるかもしれません。疾患の種類によっては、それも1つの選択肢だと思います。

一番胃瘻チューブを検討してあげて欲しいパターンとしては、本人が食べたいのに食べられない状態。

お口の中のガンとか、食道疾患とかですね。

この場合、栄養さえ摂ることができれば、元気よく楽に過ごせる時間がたくさん取れるはずなんです。

食べたい、生きたい、でも食べられない。

こういうときは、獣医師として、「もう少しだけ、飼い主さんと一緒にいられる時間を作ってあげたいな」と、切に思うんですよ。


でも、飼い主さんはなかなか決断ができません。

「チューブを入れることがこの子のためになるのでしょうか・・・」と迷ってしまうんですね。

そうしているうちに、十分食べられない時間が長くなり、体力が尽きて麻酔をかけられる状態ではなくなります。

そんなときは、少し悔しい思いをします。

あの時、どうやって話せば、飼い主さんの不安を取り除いてあげられただろうか

・・・と悶々と考えるのです。

私の胃瘻チューブに対する考え

もちろん、考え方は人それぞれです。どうするかは飼い主さんが決めること。

でも、私個人の考えを参考までに伝えておきますね。


犬や猫は、自分のお腹にチューブが付いていることなんて気にしません。

他人の目も気にしなければ、お口からごはんが食べられないことも気にしません。

服を着て生活しなければいけないことも気にしません。

美味しいものを食べられないことに文句も言いません。

栄養が取れて元気が出て、お薬のおかげで痛みもとれて、吐き気もなくなって、なんだか気分がよくなって、、、

そして、飼い主さんとまだまだ時間が過ごせそうだなということを感じ取って、ただだだ安堵するのではないでしょうか。


私は、もしも自分の愛犬が何らかの理由で食べられない局面が来たとき、胃瘻チューブを入れることへの抵抗は無いと思います。

入れたほうがいいと判断すれば、迷わず入れるでしょう。

それは、愛犬のためであり、私のためでもあります。

それが、「まだまだ一緒にいられるよ!」って愛犬を安心させてあげられる方法だし、お互い心穏やかに最期の時間を過ごすことができる最善の方法だと思っているからです。

もしも、ご自分の愛犬愛猫が最期を迎える局面で、胃瘻チューブを提案されることがあったら、少しだけ前向きに検討してみてはいかがでしょうか?

獣医師は何匹もの犬猫の最期を見てきています。

その上で、熟慮の上、提案しているのです。それなりの理由があります。

以上、いつか誰かの役に立つことを祈って書きました。


このnoteでは、臨床獣医師として日々動物たちの診療にあたっている筆者が、

  • エビデンスに基づいた正しい知識

  • 適切な予防医療や病気の早期発見のための知識

  • 疾患を抱える犬猫との向き合い方

を飼い主様にお届けしています。

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