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犬猫のお薬辞典Vol.8〜神経の薬編〜

獣医さんにもらったお薬、どんな作用があって、どんな副作用があるのか、詳しく知りたいなと思ったことはないですか?

インターネットで調べると、添付文書のような堅苦しい説明書きしかヒットしないし、効能書きを見てもナンノコッチャ・・・?って感じで結局よく分からない。

そんな飼い主さんのために、「獣医さんからもらった薬が分かる本」を作りました。

Vol.8は「神経系疾患のお薬」です。


その他のお薬辞典は以下のマガジンからご参照ください。

このnoteを作った理由は、飼い主さんのアドヒアランスを高めてもらうためです。

先日、以下のようなツイートをしました。

アドヒアランスとは、簡単に言うと「飼い主の治療に対する理解と積極性」です。

獣医師にすべてお任せするのではなく、飼い主さん自身がペットの病気に対して深く理解し、治療に積極的に関わることを、「アドヒアランスが高い」と表現します。

愛犬や愛猫の治療は、基本的にアドヒアランスが高い飼い主さんほどうまくいきます。

だからこそ、私のnoteでは、「飼い主さんが病気や治療を理解するための材料を提供すること」を目標にしています。

アドヒアランスを高める上で非常に重要な課題の1つが、もらった薬を理解すること

正直、一般的な一次病院では、獣医師がインフォームドコンセントの過程で薬の解説を行う時間までは確保できないことが多く、できたとしても浅く概要を説明する程度で終わってしまうことがほとんどです。

このnoteを辞書代わりに持っておいていただくことで、いざ動物病院でお薬を処方されたときに、

  • どんな目的で処方されたお薬なのか

  • どんな仕組みで効果を発揮するのか

  • 今、愛犬愛猫の体の中では何が起きていて、それを薬でどう改善しようとしているのか

  • 服用中、どんなことに気をつければよいのか

など、知りたいこと(+α)が分かるようになります。


このnoteの特徴

薬の効能と、その薬が効果を発揮する仕組みを、飼い主さんにも分かるように噛み砕いて解説しています。

できる限り詳しく、かつ一般の方でも理解が追いつく程度に内容を厳選し、複雑な部分には図解も加えてあります。

副作用や注意事項の書き方も工夫しました。

どの薬にも副作用があるわけですが、「これは特に注意しなければいけないな」という副作用と、「こんな副作用、実際は見たことないなあ」という稀な副作用があります。

このnoteでは、添付文書の丸写しではありません。
臨床現場で働く獣医師がよく遭遇する副作用をピックアップし、実際に何に気をつければいいのか、よく分かるようにしています。
※稀な副作用が起こる可能性は0ではないので、「このnoteで触れていない副作用は起きない」という意味ではありません。その点は勘違いしないようにしてください。

Vol.8は「神経系疾患のお薬」です。

主には、てんかん発作持ちの犬猫を治療するための”抗てんかん薬”について解説したいと思います。

お薬の仕組みを理解すると、その病気の病態もよく見えるようになります。
・治療中の病気をもっと知りたい
・どんな仕組みで薬が効いているのか理解したい
そんな飼い主様のお役に立てるでしょう。

※追記してほしい薬のリクエストがあれば、TwitterのDMやnoteのコメントで教えてください。(購入者は追記分も読むことができます。)
※このnoteは「犬猫のお薬辞典シリーズ」の第8弾です。
※購読していただいた方からの質問や相談を受け付けます。コメント欄をご活用ください。
※獣医学生さんや動物看護師さんのお勉強にも役立つかと思います。
※返金保証も付けております。内容に満足できなかった方には、全額返金致しますのでご安心ください(note運営事務局の審査が入る点はご了承ください)。

てんかん発作の概要

このnoteで解説するお薬のほとんどは「抗てんかん薬」という分類に当てはまるお薬です。

まずはてんかん発作が起きる仕組みについて理解を深めましょう。

てんかんの詳しい解説や、治療指針、発作が起きたときの対処法などは以下のnoteでも解説していますので、ご参照ください。


私達が筋肉を動かしたり、思考したり、あるいは痛みを感じたり、暑さや寒さを感じたり、そういった情報処理を一手に担うのが脳です。

脳の中には無数の神経細胞が存在し、たくさんの神経細胞が電気信号を送りあって、情報を処理しています。

例えば、腕をあげたいと思ったら、脳から「収縮しなさい」という司令が、神経細胞を伝って上腕二頭筋に伝わり、その司令を受け取った上腕二頭筋が収縮して腕があがるのです。

てんかん発作は、脳の神経細胞が異常発火することによって起こります。

つまり、神経細胞の電気信号がフィーバーを起こして、体の動きや意識状態がコントロール不能に陥ってしまうのです。

火事に例えるとわかりやすいでしょう。
ある家(神経細胞)で火の手が上がり、それが次々に近隣の家へと広がってしまうと、「てんかん発作(大火事)」に陥るわけです。

ぼやが大家事に発展するのを防ぐためには、隣の家から隣の家へと火が広がっていくのを防げばいいわけです。

つまり、隣の神経に電気信号を伝える仕組みを止めることができれば、てんかん発作を抑えることができるはずですね。

神経細胞の電気信号が、隣の神経細胞へ伝わる仕組みを少し覗いてみましょう。

まず、①神経細胞の電気信号が神経の末端まで届くと、②細胞表面にあるイオンチャネルという扉が開き、Na(ナトリウム)イオンやCa(カルシウム)イオンといった陽イオンが細胞内に入ってきます。

そうすると、③細胞内の電位(+-の触れ具合)が変化して、シナプス小胞という小袋が動き出し、袋の中のグルタミン酸を細胞外へと放出します。

これを、④隣の神経細胞の表面の受容体がキャッチすると、めでたく電気信号が引き継がれ、⑤お隣さんも電気信号を発するわけです。

以上が、電気信号の伝達の仕組みです。

また、神経の中には「抑制性神経」という神経も存在します。
抑制性神経から分泌されるGABAは、隣の細胞に陰イオンを流入させます。
陰イオンが流入すると、細胞に電流が発生しづらくなり、神経の発火を抑えることに繋がります。

この過程のうちのどこかの過程に作用して、なんとかして隣の神経に電流を伝えないようにするのが、抗てんかん薬です。

それでは、各抗てんかん薬の作用機序を見ていきましょう。

フェノバルビタール

古典的な抗てんかん薬です。
てんかん発作を抑えるために使われます。

仕組み

フェノバルビタールの作用点は「GABA受容体」です。
先程の図(下図)の赤マルの部分です。

この図では、水色の神経細胞が、下の赤色の神経細胞に電気信号を伝えようとしています。水色が発火すると、赤色にも電気信号が伝わるという仕組みです。

そして、水色の神経に対してブレーキをかけているのが緑色の神経です。

緑色の神経からGABAという物質が分泌されると、水色の神経のGABA受容体がそれをキャッチします。GABA受容体はいわば細胞の扉。GABAをキャッチすると扉を開く仕組みとなっています。

開いた扉からはClイオンが細胞内に流れ込み、これが神経の発火を抑制するのです。

いわば緑色の神経は消防士。火消しの役割を担っているわけですね。

フェノバルビタールは、このGABA受容体に結合して開きやすくします。
結果的に緑色の神経(=消防士)を応援する形になるのです。

消防士が頑張ってくれれば、大きな火事(=てんかん発作)を防ぐことができるわけですね。

副作用・注意事項

フェノバルビタールには肝障害の副作用があります。
長期間使用していると、投与量によっては肝臓の数値が上がってくるのです。

具体的にはALT,AST,ALPといった肝数値が高くなってきます。

肝障害が重度に進行すると、次第に肝臓が本来の機能を果たすことができない状態(肝不全)に陥ります。

よって、フェノバルビタールを使用する際には、肝臓の数値をしっかりとモニターする必要があります。

また、抗てんかん薬全般に言えることですが、使い始めてから1週間くらいは、眠気や鎮静効果が強く現れることがあります。
「なんだかクタッとしてるなあ」と心配になるかもしれませんが、これは最初だけで、だんだんと体が適応して元気になることが多いです(「薬が効きすぎた!」と焦って減薬する必要はありません)。

最近では、犬でも猫でもゾニサミドというお薬がよく使われるようになりました(後述)。フェノバルビタールと同様に良好な治療効果が得られるうえに、副作用も少なく、お値段もそんなに張りません。これからは、ゾニサミドが抗てんかん薬のスタンダードになると思われます。

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