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やばい嘔吐、様子を見ていい嘔吐

「うちの子が急に嘔吐しました!
様子を見ていいのでしょうか・・・
すぐに動物病院へ連れて行くべきでしょうか」
…と迷ってしまうことってないですか?

迷うくらいなら早く動物病院へ連れて行ってくださいと言いたいところですが、実際のところ、急性の嘔吐には、やばい嘔吐様子を見ていい嘔吐があります。

この記事では、獣医師が何をもってこの2つの嘔吐を見分けているか解説したいと思います。

この記事を読めば、

  • 今日の嘔吐は様子を見ていい嘔吐なのか、

  • それとも今すぐ動物病院に連れていかなければいけない嘔吐なのか、

ある程度判断できるようになるでしょう。


嘔吐を起こすやばい原因

犬猫が嘔吐する原因は無数にあります。

そのうち、「これはやばい!急いで処置しなくては!」という嘔吐の原因は以下。

  • 異物の閉塞

  • 腸重積

  • 中毒

  • 子宮蓄膿症

  • 胃腸の腫瘍

  • 急性膵炎

etc.

獣医師は、嘔吐している犬猫を診察する際、上記の疾患の可能性を常に考慮しながら診察をしています。

逆に、上記以外の嘔吐は「原因不明の急性嘔吐」として扱い、経過観察をおすすめすることが多いです。

やばい嘔吐の特徴

やばい嘔吐の特徴を見ていきましょう。

頻回嘔吐&食べない

1日に10回20回と絶え間なく吐く、全く食欲がない

これは腸閉塞や急性膵炎を疑います。

だんだんと嘔吐回数が増えてきたのであれば、胃腸の腫瘍なども考慮しなければいけません。

とにかく、普通の嘔吐でないことは確実。

血液検査、レントゲン検査、腹部エコー検査などの検査を一通り行って、何が起きているのか調べなくてはいけません。

ウンチが出てない

頻回嘔吐とともに便が出ていないのであれば、これも腸閉塞を疑う症状です。

便が出ないということは、腸のどこかが詰まっている可能性が多いにありますからね。

おまけに何回も吐いているとなったら、急いでレントゲンと超音波検査をしなくてはいけません。

そして、閉塞物が確認されたら緊急手術です。

ちなみに、どうして異物の閉塞をここまで恐れるかというと、異物が腸に詰まると、その部分の腸の血流が遮断され、虚血を起こしてしまうからです。

虚血時間が長引くと、閉塞部の腸は壊死していき、最終的に虚血部が穿孔を起こして急性腹膜炎を起こすリスクがあります。

そして、何回も吐くので脱水を起こし、体がどんどん疲弊していきます。

特に若い犬猫は異物の誤食が多く、飼い主さんが気づいていなくても変なものを飲み込んでいたということは往々にしてあります。

体感的には、半数の症例は飼い主さんが気づいていないところで誤食しています。

問診で「何か変なものを食べましたか?」と聞きますが、飼い主さんから「いいえ」と返ってきたとしても、常に異物閉塞の可能性を頭の片隅にいれながら診断を進めていきます。

お腹を触ると怒る、鳴く

お腹を触ったときに嫌がったり、鳴いたり、痛そうな様子が確認される場合、急性膵炎、腸閉塞や腹膜炎などを疑います。

急性膵炎という疾患は、ごはんを消化するために分泌されるはずの膵臓の酵素が、なんととちくるって自分の組織を破壊してしまうという病気です。

ものすごい痛みを伴います。

ほかに腹痛を訴えているときの症状として、「祈りのポーズ」というのがあります。

祈りの姿勢

前足を突き出してお尻を天に向かって上げ、なんとか腹痛を和らげようとしているサインです。

これが見られたら相当お腹が痛いので、すぐに動物病院へ連れてきてください。

動かしたり抱っこするのも嫌がるかもしれませんが、それでも連れてきてください。

家にいても治らない可能性が高いです。

体重減少あり

  • 以前からポツポツ嘔吐があったけど、だんだん頻度が増えてきた

  • 体重がどんどん落ちてきている

といった嘔吐の場合は、第一に腫瘍性疾患を疑います。特に胃や十二指腸のガンですね。

次席で、炎症性腸疾患のような慢性的に炎症を起こすような疾患の可能性も考慮します。

吐物のなかにプラスチック片

明らかに異物を食べています。

プラスチック片が出てきた時は、プラスチック製のおもちゃなどをガジガジと噛んで破壊したあと、飲み込んだ可能性が高いです。

残りのプラスチック片が腸閉塞を起こす前に対処したいところです。早めに動物病院へ連れてきてください。

とってもよく観察しないとわからない小さい破片が混じっていることがあります。

「どんなものを吐いたか」は、重要なヒントです。
よくよく確認してみてください。

目の粘膜が黄色い

あまり無いパターンですが、目の粘膜が黄色い場合はおそらく「黄疸」を起こしています。

同時に尿がオレンジっぽく濃い色になります。

黄疸が見られるということは、

  • 肝臓に重度の障害があるか

  • 胆汁(肝臓で作られる消化液)が詰まっているか

  • 赤血球(血液中を流れる細胞で酸素を運搬する)がすごい勢いで壊されているか

大体この3つのどれかです。

いずれにしても重大な疾患が背景にある可能性が高く、すぐに動物病院で検査を受けるべきです。

嘔吐&黄疸が同時に起きる疾患としては、

  • 何らかの毒物摂取による中毒

  • 胆嚢粘液嚢腫(胆嚢のなかにゼリーがたまる病気)(犬)

  • 肝炎(慢性or急性)

  • レプトスピラ病(犬)

などが挙げられますが、これ以外にも可能性のある疾患を上げればキリがありません。

未避妊メス&多飲多尿&陰部から排膿&元気消失

未避妊メスが体調を崩したら、とりあえずパイオ(パイオメトラ:子宮蓄膿症)を除外せよ!

…というのは、獣医師であれば誰もが頷く鉄則かと思います。

それくらい未避妊メスには子宮蓄膿症が多いのですが、この疾患も早く対応しないと命に関わる重大な疾患です。

嘔吐が主訴というよりは、

  • 何か食欲元気がない

  • 陰部から膿が出ている

  • 水をよく飲む

といった症状がメインであることが多いですが、嘔吐で来院されることもあります。

子宮蓄膿症は、子宮の中に細菌が感染し、膿だらけになってしまう病気。
次第に細菌は血液に乗って全身に広がり、細菌が出す毒素に侵されて敗血症ショックを起こします。

治療は卵巣子宮摘出術

要するに避妊手術です。

避妊手術をすれば100%防げる疾患ですから、病気になる前に避妊手術を受けることをおすすめします。

様子を見ていい嘔吐

次に様子を見てもいい嘔吐の特徴です。

犬猫の診療において、「やばそう」よりも「大丈夫そう」のほうが判断が難しかったりします。

上記のやばい嘔吐の特徴に当てはまらないことが前提ですが、以下の特徴に当てはまる嘔吐は時間経過とともに勝手に治ってしまうことが多いです。

1〜2回だけ嘔吐、元気食欲あり

元気と食欲があって、1〜2回吐いたくらいなら、多くの場合様子をみることができます。

1日様子を見て次の日も何回か吐くのなら、念の為動物病院を受診してください。

思い当たるきっかけあり

「多分昨日ささみを食べ過ぎたからだな」

「いつもと違うおやつを与えたからかな?」

という”思い当たるきっかけ”がある場合(かつ、やばい嘔吐の特徴に当てはまらない場合)は、1日様子を見ても大丈夫です。

その原因が取り除かれれば、自然と治まる場合がほとんどだからです。

猫の毛玉嘔吐

猫はまったく吐かない子のほうが少ないんじゃないかというくらい、嘔吐が多い動物です。

特に長毛種は、定期的に毛玉を吐くことが多いですね。

飼い主さんも慣れていて、「あ、また毛玉を吐いたな」と放っておかれる方が多いです。

頻度が月に数回程度なら許容範囲ですが、いつもより頻度が多いなと思ったら、毛玉以外の原因があるかもしれません。もしくは毛玉症の重症版ってことも。

草を食べて吐いた

草を食べてその後吐いた犬がよく来院しますが、これも多くの場合は様子を見て大丈夫です。

ただし、道端の草って除草剤が撒いてあったりするので、なるべく食べさせないように気をつけてください。

めったにないことですが、摂取量によってはそれで中毒になったり、下痢嘔吐の原因になったりします。

まとめ:続くようなら迷わず診察へ

嘔吐の見極め方についてまとめました。

時と場合と状況によって、必ずしも上記の判断基準だけでは判断できない場合もありますから、心配であれば動物病院へ連れて行くことをおすすめします。

案外飼い主さんの嫌な予感は当たることがありますからね。

それから、様子を見ていい嘔吐でも、3日以上続くようなら、動物病院を受診したほうが無難です。

以上、参考になれば幸いです。

このnoteでは、臨床獣医師として日々動物たちの診療にあたっている筆者が、

  • エビデンスに基づいた正しい知識

  • 適切な予防医療や病気の早期発見のための知識

  • 疾患を抱える犬猫との向き合い方

を飼い主様にお届けしています。

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