TRIGGERとサイエンスSARUがこれから伸びる理由
皆さんはアニメ制作会社に興味はありますか?
それなりにアニメを嗜んでいる人であれば、アニメ制作会社を基準にアニメを選ぶこともあるはず。
アニメ制作会社によって作風が大きく異なり、作品の良し悪しを決めることも珍しくありません。
色々と有名なアニメ制作会社はありますが、今後ほぼ間違いなく伸びるアニメ制作会社が2つあります。TRIGGERとサイエンスSARUです。
京都アニメーションでもMAPPAでもCloverWorksでもなく、TRIGGERとサイエンスSARUに私が注目する理由を私見たっぷりに解説していきます。
【前提】今はセルルック3DCGが熱い
まず前提として、今アニメ制作業界でめちゃくちゃ熱いのは「セルルック3DCG」です。
セルルック3DCGとは「手描きアニメ風の3DCG」のことで、代表作としては『THE FIRST SLAM DUNK』が挙げられます。
現在、世界のアニメ作品の多くは3DCGで制作される一方で、日本のアニメは未だに手描きアニメ派が多い。なぜならアニメ作品のほとんどが、漫画やライトノベル原作のためです。原作を忠実に再現しようと思うと、3DCGは相性が悪いので、手描きアニメで制作されます。実際、アニメが好きな方の大半が、3DCGより手描きアニメを好みます。
しかし、セルルック3DCGの登場で事態は急変します。『THE FIRST SLAM DUNK』によって、人々が「別に3DCGでもいいかも」と思うようになってきたのです。
実際、セルルック3DCGの進化速度は凄まじく、最近は3DCGと手描きアニメの区別がつかなくなっています。
試しに『菜なれ花なれ』のOP映像でAメロのダンスパートを見てください。色彩設計を工夫することで、3DCGと手描きアニメの区別がつかなくなっています。
2020年代は、セルルック3DCGがより注目されるようになるでしょう。
3DCGのメリットは、コンピューターの進化の影響を強く受けることにあります。
「18ヶ月ごとに半導体の性能が2倍になる」と説いたムーアの法則は、同時に「18ヶ月ごとに半導体のコストが半分になる」としています。
つまり、セルルック3DCGの資本コストも年々縮小するのは間違いありません。より多くの作品で、セルルック3DCGを使った映像表現が見られるようになるのです。
ここ20年で作画の質はあまり上がっていない
一方で、アニメの生命線である「作画」についてはどうでしょうか。
たしかに、20年前の作品に比べて、今の作品の方が「質」は高まっています。しかし、これは作画のレベルが向上したわけではなく、3DCGやエフェクト(撮影技術)の進化の方が大きい。
そもそもアニメにおける「作画」とは「線の動き」のことで、この領域については何もイノベーションが起こっていません。その理由は明白で、コンピューターの進化の恩恵を受けられないからです。
セルルック3DCGにできないこと
では今後は、全てのアニメ作品はセルルック3DCGで制作されるようになるのでしょうか? たしかに今のセルルック3DCGであれば、原作の雰囲気を崩すことなく、高品質はアニメを制作できそうです。今後、コストが縮小される見込みであることを考えると、多くの作品でセルルック3DCGが取り入れられるようになるでしょう。
しかし、完全に代替されることはありません。なぜならセルルック3DCGにできないことが存在するからです。
そもそも3DCGは、まず最初に「モデリング」という工程で「形」を作ることから始まります。一度「形」を作り込んでおけば、あとはシーンに合わせて動きを作ってあげることで、アニメ作品が完成します。
一方で手描きアニメは「線」でキャラクターを描きます。実はここが重要なポイントで、3DCGは「形」を作っていく性質上、線そのものを動かすことが難しいのです。
実際、セルルック3DCG作品の多くは、キャラクターデザインが固定されています。なぜなら一度「形」を作り込むからです。しかし手描きアニメは、シーンごとに「線」を描いてキャラクターを作り続けるため、シーンや動きに合わせてテイストを変えることができます。
もちろん、セルルック3DCGでもシーンごとにテイストを変えるのはできなくないのですが、形をもう一度作る必要があるため、結構大変な作業になります。
※例えば以下の動画のような「味のある動き」はセルルック3DCGには難しい
TRIGGERとサイエンスSARUは「線」が強い
一方で、3DCGに頼りすぎずに「線」を用いた表現を追求し続けたアニメスタジオが2社あります。
それがTRIGGERとサイエンスSARUなのです!
TRIGGERのケレン味溢れる映像表現
TRIGGERは、『新世紀エヴァンゲリオン』で有名なガイナックスに所属していた大塚雅彦さん、今石洋介さん、舛本和也さんによって設立されたアニメスタジオです。
当時、この3人は『天元突破グレンラガン』の制作経験があり、そのときの主要スタッフを引き連れてTRIGGERを設立しました。そして第一作が、今石洋介監督らしさ全開の激アツアニメ『キルラキル』です。
今石洋介監督と言えば、漫画的な表現を多用したパワフルな映像が特徴で、近年の実写的なアニメ表現とは真反対です。
そのあとも、TRIGGERで制作されるアニメの大半は「漫画的な表現」が多用されており、3DCG主体の表現はほとんどありません。
サイエンスSARUはもっと強烈
一方のサイエンスSARUは、TRIGGERよりもっと強烈な映像表現が強みです。
元々、サイエンスSARUは『ピンポン』などの作品を手がけた湯浅政明監督が設立したアニメスタジオです。
サイエンスSARUの初めての劇場長編アニメは『夜は短し歩けよ乙女』ですが、これはもう3DCGとか使ってる暇はありません。
湯浅政明監督がサイエンスSARUを離れてからは、京アニ出身の山田尚子監督や、サイエンスSARUで腕を磨いた山代風我監督が活躍中。最近だと『きみの色』や『ダンダダン』が有名です。どちらも3DCGにできそうにない映像表現が感じられます。
TRIGGERとサイエンスSARUがこれから伸びる理由
TRIGGERとサイエンスSARUは、それなりにアニメスタジオに詳しい人なら誰もが知る企業です。本記事を読んでいる方なら、既に作品を視聴済みのはず。
一方で、この2つのアニメスタジオは、有名な作品を手がけることはほとんどありませんでした。いわゆる「玄人向け」の作品が多いというか、少なくとも大衆向けにアニメを作ることはなかったのです。
しかし今後、TRIGGERとサイエンスSARUは大衆化していくだろうと私は考えています。
TRIGGERは有名IPをアニメ化する?
まずTRIGGERは、2013年に『キルラキル』を公開したあと、アニメオリジナル作品を中心にIPを展開していきました。その代表例が『宇宙パトロールルル子』や『リトルウィッチアカデミア』です。
仮に原作モノをアニメ化する場合も、有名作品を手がけることはほとんどありません。『SSSS.GRIDMAN』や『サイバーパンクエッジランナーズ』がその典型例でしょう。
一方で、取締役の舛本和也さんは講演会で以下のように述べています。
この文章が意味するところは、2011年から10年は自分たちが原作権を持つものを作った後、次の10年は人材育成のために「他社IPをアニメ化する」ということです。
そして実際にTRIGGERは『キルラキル』の放送から約10年後の2024年1月、『ダンジョン飯』を公開します。『ダンジョン飯』は、漫画好きであれば知らない人はいない超有名IPです。
ということはこれから10年間、『ダンジョン飯』に匹敵、またはそれ以上の有名IPをTRIGGERが制作する可能性が高い。
私の推測ですが、今石洋介監督は依然として独自路線で作品を作り続ける傍らで、新人を中心に原作IPをアニメ化していく2本路線なのではないかと思います。
サイエンスSARUは東宝の完全子会社に
サイエンスSARUは、湯浅政明監督が離れたあと、一気に大衆化が進んでいきます。
最近公開された映画『きみの色』は大々的なプロモーションが実施され、現在放送中の『ダンダダン』はジャンプ+作品です。
極め付けは2024年6月に発表された報道。東宝がサイエンスSARUの全株式を取得し、完全子会社にしました。
その直前には、日本を代表するコンテンツ『攻殻機動隊』のアニメ化が決定し、サイエンスSARUの知名度は現時点でも既に向上しています。
TRIGGERとサイエンスSARUは海外展開が強い
それに加えて、TRIGGERとサイエンスSARUは海外展開が超強いアニメスタジオです。
このnoteで散々言及しているのですが、実はアニメ業界の成長のほとんどは海外収入によるものです。
『アニメ産業レポート2023』を見ても、国内のグッズや配信事業はほとんど成長しておらず、伸びているのは海外収入だけなのです。
その点で言えば「海外展開が強い」というのは大きなメリットになります。
しかし、一体なぜTRIGGERとサイエンスSARUは海外展開に強いのでしょうか?
TRIGGERは北米に強い
まずTRIGGERは主に北米に非常に強いです。最近だと『PANTY & STOCKING with GARTERBELT』の新作が発表されたのも日本ではなく、ロサンゼルスで開催されたAnime Expo2024なので、よっぽどでしょう。
そして、北米展開に強い理由として挙げられるのが、北米のプロモーションに強いアニプレックスとの協業です。実際、TRIGGER作品の多くでアニプレックスが製作委員会に参加しています。
また、そもそもの作品作りにおいて「わかりやすさ」を重視しているのも特徴です。『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』を見ればわかりますが、とにかくストーリーがシンプルで、映像もわかりやすい。一方で、世界観や設定にSF要素を多く取り入れているので、マニアのニーズも押さえています。
このバランス感覚と「わかりやすさ」は、ハリウッド作品にも通ずる部分があり、結果として北米との相性がいいのだと考えられます。
サイエンスSARUは受賞歴が豊富
一方のサイエンスSARUは、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』でアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞を受賞しています。
この賞がどれだけすごいかと言うと「アニメーション表現における最大の名誉」と言えばいいでしょうか。実際、この賞を日本人で受賞しているのは、宮崎駿監督、高畑勲監督、そして湯浅政明監督の3人だけです。
また、サイエンスSARUを買収した東宝は、2024年10月に米国のアニメ映画配給会社・GKIDSの買収も発表しました。GKIDSはジブリ作品・新海誠作品・細田守作品などの北米配給を手がけており、サイエンスSARU作品も配給していた経歴もあります。
同時期に、東宝は新海誠作品を手がけるコミックス・ウェーブ・フィルムの株式を取得していることを考えると、本格的に「アニメ作品の海外展開」に投資していると考えていいでしょう。
極め付けは、サイエンスSARUによる『攻殻機動隊』のアニメ化です。これがヒットしないわけがない。私がもし資産が潤沢にあったら、マジで東宝の株を買いたいレベルです。
【編集後記】セルルック3DCGに対するカウンター
アニメ作品は、主に2つの路線に突き進むと考えられます。
1つめは、セルルック3DCGを含めた「コンピューターを使いまくったアニメ」です。3DCGや最新の撮影技術などの「ハイテク技術」を用いて、全体の画作りを突き詰めていきます。
そしてもう1つが、人間の「手」によって描かれるローテクなアニメです。本記事で紹介したTRIGGERやサイエンスSARUのような漫画的な表現が追求されます。
原作漫画を忠実に再現できるセルルック3DCGと、そのカウンターと言っても過言ではない「超・手描きアニメ」。
既にTRIGGERやサイエンスSARUの画作りの魅力に気づいている人も多く、それが、この2020年代に大爆発する可能性は十分考えられます。
TRIGGERとサイエンスSARUには要注目です! ただ、大衆化でニッチな作品が作れなくなるのは勘弁!
Written by 星島てる