【ペット系サービス代表の小話】#臨時回 「QAL経営 人と動物の幸せを創造する」を読んで
今回はいつもの連載とは少し離れて、臨時回をお送りします。
(体調を崩して連載を書けなかったため、最近メモを取りながら読書をしたのでその記録の体裁を整えて公開します。。。)
GWを使って「QAL経営」という本を読みました。
全国8院+台湾1院のプリモ動物病院を経営する生田目さんが書いた本で、彼が最も大事にしている「人に対する価値観」・動物病院の経営ノウハウや経験した苦悩・ペットオーナーと動物病院のあり方に対する強い想いが分かりやすく描かれていました。
隅蔵は動物病院を作る予定は今のところないですが、これまで数百人の動物病院院長と会ってきて、これからも会い続けていき、動物病院業界に尽くしていくことを考えたときに、動物病院経営という仕事をもっと知っておきたいという思いでこの本を読みました。
備忘録的な役割を含め、自分的まとめをここに示します。
181ページの本を10分弱で読める程度に短くしました。
興味ある方は是非こちらからご購入を。
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約30年前、もともと自然科学に興味があった生田目少年は、飼っていた日本犬”純太”の影響で獣医学部に入学することに。しかし獣医学部の勉強は想像していたサイエンスとは違ってとにかく覚えるものばかり、2年生になる頃には獣医学への興味はどんどん失せてしまいます。
時を同じくして、たまたま友人の誘いで夏休みに飲食店のアルバイトをし、そのお店の社長に惚れ、「飲食市場」・「経営者という立場」への憧れを持つようになります。
獣医学部と「飲食市場」「経営者という立場」、そのあまりの遠さに退学を意識するも、なんとか獣医師免許取得までこぎつき、卒業後は望み通りに福岡県の飲食ベンチャーに入社。
入社後はまさにジェットコースターのような日々。激動の飲食業界の中で新人社会人ながら複数回の新店オープン・事業立ち上げを経験し、ブラックな働き方で食材の仕入れから人材育成まであらゆる業務に揉まれます。
そんな日々を1年過ごした頃、母親からかかってきた一本の電話が彼の人生を大きく動かすことになります。
電話の内容は、純太の体調悪化を伝えるものでした。原因は腫瘍。一度は手術で回復したものの、最初の電話から3ヶ月で純太は亡くなってしまい、実家の両親はペットロスに。両親と獣医師のコミュミスもペットロスの原因になったのだろうと考えました。
この事実を重く見た彼は、「ペットオーナーと獣医師がもっと近い世の中を作る」という想いで、飲食の仕事にやり残しを感じつつも獣医療業界にカムバック。教授の進言もあり、獣医療出版社インターズーに入社するのでした。
インターズーでは社長のそばでペット業界全体の情報を浴びながらあらゆる種類の仕事をこなしていきます。3年半勤めている間にペットブームもありましたが、多くの動物病院は殿様商売のまま。ペットオーナーに対する獣医師の姿勢が変わる兆候を見せないことに彼は強い課題感を感じ、動物病院を自分で作ることに踏み切ります。
病院名よりも最初に決まったのは「経営と診療の分離」でした。彼には飲食ベンチャーで培ったリサーチ力やバックオフィスの能力がありましたが、小動物臨床の経験はありませんでした。それがかえって、その後のグループ病院展開には功を奏したとも言えます。臨床や獣医療の人材育成は信用できる中学の同級生の獣医師を院長に抜擢し、任せることにしたのでした。
29歳になった彼は、徹底した市場調査と物件選定をした上で2003年10月に神奈川県相模原市に「プリモ動物病院」1号施設を開院します。その調査は、周辺の動物病院の年配院長の子供が病院の後継者になるか否かまでを調べあげる本気度でした。
オレンジでアットホームな雰囲気、9時~24時まで対応する、土日両方とも開ける、エキゾも診る、HPを作って価格を載せるなど、飼い主ファーストの施策で初日から順調な滑り出しを見せ、3ヶ月目には黒字化していました。
しかし1年半位たった2005年には、彼は他案件にも取り組んで手一杯になり、院長を支える時間が無くなってしまい、それが1号施設内の人間関係の悪化を招いてしまいます。
マネジメントの失敗に頭を悩ませつつも、黒字は順調に重なり手元の現金は増えていきます。イベント関連のお仕事やコンサルティング業務も請け負い、2005年に横浜・関内に本部オフィスを構えるようにもなります。そんな頃、福岡の知り合いの誘いで福岡県に2号施設を開院することになりました。
「飲食ベンチャーの思い出の地に動物病院を作って、そこから全国制覇してやるんだ!」 そんな強い思いで開いた2号施設でしたが、結果的には大失敗に終わります。
市場調査もほとんどせず、最初から知り合いが用意した物件ありき、売上が上がるかも分からないまま潤沢な人員でスタートを切り、1号施設のマネジメントの失敗に目を向けずに遠隔地のマネジメントにチャレンジしてしまったのです。
開院してから数ヶ月たっても売上は伸び悩みを続け、途中で黒字化はしたものの、結局2013年に当時の院長に病院を売却するに至ります。慢心や希望的観測、外発的な動機に触発される怖さを思い知ることになるのです。
この反省から、グループ病院は関東圏内にすること・人事体制やルールを整備することなど新しく決めて、2007年には新2号施設である「相模大野プリモ動物病院」を開院します。新2号施設は、周りに夜間病院がなかったことから21時まで利用可能な病院にしたところ大盛況となり、順調に伸びていく病院となりました。
この良い流れに乗って、年商2.5億円~3億円を目指してこれまでで一番大きい第3号施設「プリモ動物病院相模原中央」を2008年に開院します。3号施設では、「皮膚に強い病院」という専門性をコンセプトにして大成功。会社は完全に成長軌道に乗っていきます。
3つも病院があると、管理体制が重要になってきます。各病院の院長が診療に集中できるように、各病院の戦略・販促・人材採用などを考える体制を本部内に整えていくのでした。
そこからは、2009年にペットの健康食品の会社ペティエンスメディカル(現QIX)の代表となり、2010年に相模原市内にワンフロアの新オフィスを借りて本部を移転、2011年には第4号施設の「厚木プリモ動物病院23時」を開院します。
4つに病院が増え、院長のサポートやマネジメントでさえ一人では回らなくなってきました。いくら権限委譲しても、会社全体としてクオリティの管理をするのが難しくなってくるのです。そして、動物病院をたくさん作るよりも効率よくお金を作る方法はあることも知っています。
しかし彼は、日本の中でモデルとなる動物病院のカタチを満足いくまで追求するため、さらなる動物病院の開院に進むのです。
2014年には初の東京出店となる第5号施設「プリモ動物病院 練馬」、神奈川県にも第6号施設「横浜戸塚プリモ動物病院」を開院。
2016年には1号施設を4倍に拡大・移転し、「相模原プリモ動物医療センター」に改名。
2017年には第4号施設の厚木プリモ動物病院23時を拡大・移転し、「厚木プリモ動物病院」に改名。
2018年には第7号施設「町田森野プリモ動物病院」、第8号施設「相模原プリモ動物医療センター 第2病院」を開院。
2019年にはついに日本を飛び出て台湾に「台北プリモ動物病院」の開院に至ります。
2022年には第9号施設「神奈川どうぶつ救急救命センター」を開院する予定で、夜通し開けて相模原市内の救急症例を引き受ける予定です。
新規で病院を作る際には、物件管理会社や不動産屋から情報を待つだけでなく自分で動いて物件探しをしていました。商圏・人口・人通り・競合病院などの場所柄だけでなく、建物の形・建物の上下水道設備・車の双方向からの入りやすさ・駐車場の広さなど建物固有の性質も含めて幹部・社員と物件チェックをするようにしているのです。
台湾での病院が落ち着いてきた頃、世界にはコロナがやってきます。
2020年には相模原市のオフィスを町田駅前のビル1棟に移転し、コロナへの対応策を進めることになります。
各病院ではスタッフを2つのチームに分けて、病院にいる人員を1日1回完全に入れ替えてしまうことで、感染者が出てももう一方のチームが対応できるようにしたのでした。それにとどまらず、QIXが動物病院・獣医師向けに行っていた技術研修・セミナーをいち早くオンラインにしたことが大当たりします。他社のオフラインのセミナーが中止になり続けたせいで、獣医師は新しい情報に飢えていたのです。
2003年から2019年までに国内外9病院のオープンと2病院の拡張・移転をした彼は、病院グループで育てていく上で最も大切なのは「人を大切にすることだ」と記しています。
社内外の全ての人を大切にする。病院スタッフにはスキルを向上させるとともに、自信に裏打ちされた高い人間力も身につけさせる。皆が皆をサポートし、個性を生かして自己実現もしながら成長しやすい職場を作る。
スタッフが輝いているからお客様が増え、さらに人材を採用できるようになり、さらにサービス品質が上がる。そんなサイクルを当たり前にすべく日々活動していくことに彼は重きを置いています。
人を育てるためのポイントとして、
・対話から化粧まで謙虚さを意識して新人に教え込むこと
・自分が思う100%を人に求めないこと
・人材を管理するのではなく、より活かすことを考えること
・いかにしてメンバーのモチベーションを減らさないか考えること
・個性を理解してやりたくないことをやらせないこと
・上位者の相談を聞けるスーパーバイザーを用意すること
など多くの大事なことがまとめられています。
これにより、プリモ動物病院グループは動物病院業界の中でも圧倒的に低い離職率を実現しています。
ペット業界全体に話を移すと、ここ30年でペットフードは年齢別・疾病別とあらゆる種類が売られるようになり、アパレルもかなり安価で販売され、服だけでなくカートやリュックなど新しいグッズも登場し、ペット保険やペット霊園も普通になったものの、動物医療に関するところだけはほとんど変化をしていません。
動物病院や獣医師の敷居は依然として高く、悩みに適した病院は探しづらく、言いたいことを相談しづらく、値段も事前にわからない。彼が最初から目指していた「ペットオーナーと獣医師がもっと近い世の中を作る」はまだ実現されていないのです。
これを実現するために、ペットオーナーの為に新しい製品・サービスを生み出してくれる会社を支援するべく、博報堂のスタートアップスタジオ「quantum」と手を組んで「QAL startups」が生まれます。
QALはQuality of Animal Lifeの略です。具体的には「もっとペットを飼いやすく、面倒くさくなく、便利な世の中にしたい」という意味の言葉です。
彼の想いは、「いい動物病院を作りたい」から「モデルとなる動物病院グループを作りたい」と変化し、今は「QAL実現のためのソーシャルインパクトカンパニーでありたい」になっているのです。
獣医師は、同じ仕事をずっとやっていく・その先のキャリアが見えづらい・何のためにやっているのか分かりづらくなりやすい、そんな特徴があって夢や目標がくすみやすいのかもしれません。
そんな状況を打破すべく、動物病院・獣医師がもっと着目され、社会的役割を拡大し、もっとQALを向上できるようにあらゆる新規事業にも彼は着手しているのです。
そして本作の最後はやはりこれで締められています。
「すべての根幹は「人を大事にする」こと」
従業員には職業人として充実感のある幸せを手に入れて欲しい。社会に対しても自身の役割を認識して欲しい。それがまた幸せを大きくすることにつながる。
全従業員が幸せを手にできるように管理するのが、経営サイドの仕事である。
ということで、以上「QAL経営」のまとめでした。
いかがだったでしょうか。
隅蔵としては、これだけ多くの人員を抱えるまでに会社を大きくしても1号施設を作ったときの想いを忘れていないところ、経営の本と思いきや「動物病院業界では重きを置かれていない”人材育成の大切さ”」を丁寧に説いているところに生田目さんの尊い価値観がよく表れていると思いました。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。
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