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『話の話』を記述する(15~嘘の猫)

 さて大気の層2の何気なくて・不可思議な印象に一瞬、目を瞠らされている間にも、カメラは移動し続けていて、画面の左端からテーブルと椅子と現れて、さらにテーブルの寝そべる猫、椅子に座る詩人が現れる。
 より正確にカメラ移動で現れる個物の順番は、背もたれのない椅子、横長のテーブル、テーブルに向かって置かれて背もたれのある椅子、テーブルに寝そべる猫、テーブルの上にインク壺があってそれにひたされたペンと真っ白な紙、もうひとつの椅子の背もたれの上に両腕を抱えて頭を乗せている痩身の男(「詩人」だと言われている)。
 カメラの左への視点移動で、これらのものがひとつひとつ画面の左から現れる。
 ズームも加わっている。
 テーブルの上の猫が画面の中央まで来たときカメラのズーム(寄り)はきわまり、その瞬間、猫はテーブルの端からぶら下げていた左腕を無造作に持ち上げて、うつ伏せに寝たまま自分の背中を掻く。猫のもう片手はテーブルの上で肘を曲げていて、自分の頭部をずぼらそうに乗せている。


 それにしてもこう書いてみて今更気づくのだが、猫がこんな風に寝そべり、背中を掻いたりするものだろうか。
 これは嘘の猫である。
 先に縄跳びさせる牛が登場していたが、牛が二足歩行する脚で椅子に座り、片手で縄を操るものだろうか。これらは嘘の牛・嘘の猫であり、擬人化された牛・猫である。
 それにしても不思議である。
 世に嘘の牛や猫が登場するアニメは数あれど、それが嘘であることを見る者に敏感にさせるアニメの皆無なことを。
 いま『話の話』の猫に嘘くささを感じ取ったのは、ではなぜか。
 それはたまたま気づいたからなのだろうか。
 そうではない可能性もある。
 『話の話』はいつだってアニメの表現の初原性に直面しながら、その表現の原理性に格闘しているからではないだろうか。
 しかしこの提言はあまりに抽象的だ。仮の言葉としてだけ書きつけておこう。

(16へつづく)


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