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アニメてにをは~魔女の宅急便:予習編

超マニアックなジブリアニメの見方「アニメてにをは全カット分析~魔女の宅急便・予習編」を始めますね。

【01】開幕冒頭、キキは湖べりの草原に寝ています。このときキキのまわりを「動いているもの」は4種類。

①草、②雲、③湖面のせせらぎ、そして④草の陰影です。4番目が気づきにくい。確認してみてください。


【02】宮崎アニメの飛行シーンは「飛ぶ喜び」だけでなくて、「飛べるかな?飛べないかな?」という危なっかしさも魅力です。

それは重力と重力に逆らう力との拮抗を、「動きとして」魅せることにあります。
初飛行のこのシーン。重力と反重力の危うさを堪能してください。


【03】アナログなセル画時代、背景が動くことは稀でした。それでも背景を動かしたいときだけ、背景は美術の手によらず、セルとして処理されました。

旅立ちのワンシーン。キキの乗っている列車、線路、周囲の緑、電線の柱、すべてがセルで出来ていて、これを「背景動画」ないし「全セル」といいます。

【04】同じ旅立ちのシーンを見ながら、まとめて宮崎アニメの魅力をおさらいしておきましょう。

宮崎アニメが「空間の立体性」を強調する手段のひとつが、この画面のように、「3層に奥行きを設定」します。手前~列車/中間~草原・並木/奥~海と島。
宮崎駿はいつだって「3層構造」で奥行きを作り出すのです。


【05】今回あらためて「魔女宅」を見て驚かされたのは、「人物の表情の独創性」ですね。
いわゆる類型的、定型・定番から外れた表情が多いです。そこも見どころですね。

この作品は作画監督が三人体制ですがどの人物も力量あるひとばかり。どのカットのどの表情を誰がチェックしたかはわたしの調査能力を超えますね。


【06】アニメの人物やモノを縁取る輪郭線、通称「トレース」。それは通常、黒の輪郭線なのだけれど、特別の場合は色のついたトレース線になります。

この「おしゃぶり」の、肌色の色トレースに注目。色トレースになって、やわらかさが印象的です。


【07】このアニメの印象的な効果と言えば、ガラス越しに店内が見えるシーン。

奥の店内。手前の店外の風景。問題はその中間の「ガラスに半透明に映ったもの」。
アニメ従事者には頭痛くなる「二重露光」という効果を三重、四重に使っています。


【08】飛ぶ「危うさ」が重力と反重力だとすれば、この鳥たちが「見えない風」のあおられる様は、作用と反作用の「動きの質的緊張感」で魅せてきます。


【09】アニメにおける「作用/反作用」は、「モノの重み」を表現します。
重量感ある配達物を計量器にかけるキキ。この腰の据わった感じが重みのあるモノを運んだ感があります。

だから「作用/反作用」の表現は「演技の質」であったりもします。


【10】裕福な老婦人から届け物の依頼に出向いたときのこの場面。

その直前からこのカットに移ったときの、空間の「開放感」はとても印象的。
スクリーンの大画面でこそ活きるはずの空間構成です。


【11】宮崎アニメにかならず出てくる「食べ物・料理のセル表現」。

ニシンのパイ。
輪郭、色の配色、陰影のつけ方。よく出来ているなあ。


【12】トンボの自転車飛行機に乗ったワクワクするシーンで、自転車が壊れて思わず大笑いするキキの表情、動作。

中盤のハイライトシーンの幕切れを告げる演出だけれど、この「長回し」の笑いは隠れた名シーンと言えるかもしれない。
ただ笑ってるわけでなく、20秒を超えながら千変万化する笑いの演技。常人でない技。


【13】魔法の能力が低くなり、飛べなくなって、必死に練習するキキ。

逆説的でありつつ、宮崎アニメならではと思えるのが、飛べなく「なりつつある」この場面の方が、いままで披露されたどの飛行シーンよりも「浮かんでいる感」が出ている、地味だけどしっかりした作画力。


【14】作品最後のクライマックスを告げる、テレビの中の事件。

アニメの画面に、もうひとつのアニメの画面が。メタアニメ、あるいはこれこそがアニメのドキュメント(作為性の露呈)を伝える効果でしょうか?


【15】クライマックス始まった。

この画面を見て、宮崎アニメのカタルシス=「運動の複数性」(いくつもの動きが交わりあう)の予兆を感じないですか?


【16】「魔女の宅急便」の場合、ラストを盛り上げる「運動の複数性」とは、キキがいくつものモノやヒトの動きの間を「かきわけて」、トンボへと接近する運動が、クライマックスを形成するようです。


【17】「ラピュタ」中盤のパズーのシータ救出劇のように、主人公カップルは一発では接触がかなわない。

そのじりじりする運動の接近の(何度とない)接近。


【18・で終わりです】

救出劇なった瞬間、周囲のひとびとが、違うようで/同じような身振りでふるまう。これもまた「運動の複数性」。
全員が同じ感動を共有する。これを「感動のファシズム」と言いますね。
ファシズムに巻き込まれないためにも「てにをは」を見ることを忘れないこと。

予習編は以上です。
ご清聴ありがとうございました。

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