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『話の話』を記述する(その9~複数の様式の共存)
複数の様式の共存。
つまり母子はエッチング調に描かれている一方、狼の子は切り絵細工で出来ている。
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つまり両者の様式が一致していない。
これも気がつけば驚くことだ。
ばらばらの様式が平気で混在している。その違和感すら従来気づかれていなかったのではなかろうか。
あまりに何気なく実現してしまっているが、思えば冒険的な試みだ。
日本のセルアニメで名高く、あるいはポール・グリモーも採用した「複数の様式の共存」。
これはこの論考の今後にまた登場するかも知れない。覚えておいていただきたい。
カットは乳児の顔に移る。
乳児は乳を飲んでいない。
画面の正面に向って目を開けたかと思うとまどろむように目を閉じ、また開ける。
乳を飲む頬がフィルターがかかっているような印象を与えたのに対し、目を閉じたり開けたりする乳児の目・まぶたの動きにぼやけの効果はない。
狼の子の正面顔が映され、あたかも乳児と狼の子がみつめあっているような印象を与えるカットつなぎ。
狼の子が小首をかしげる。
ぎこちない動きだが、狼の無心に問いかける表情とよく合っている。
しかし先ほども述べたとおり、狼の子と乳児はオーバーラップで仮につながっているだけの・偽のモンタージュでの邂逅であることは忘れてはならないだろう。
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そして林のなかに転がっている青りんご。
雨が降っている。
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雨が降っているというより、トコロテン状のものがうごめいて、雨を表現しているらしい。
冒頭の雨しずくと青りんごの感触を見たばかりの観客としては、このカットになんら驚きはない。
そのままタイトルの表示。
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