ノルシュテイン『話の話』を記述する(その7~狼の子)
母子の姿が庇に隠れていき、カメラは庇の左方向にずれていく。
そのとき奇妙な映像処理が施される。
庇ともうひとつの庇らしきものが二重露光(オーバーラップ)されてつながり合い、あたかもひとつの庇が流れてゆくように見える。
しかしふたつの庇は溝の走っている方向が違うので、同じ庇と同定することは困難だ。
最初の庇は斜め下へと溝が走っているが、後から現れる庇はほとんど横向きに溝が走っていて、それは庇と言うべきものかも定かでない。
あえて言えば屋根裏にあるような印象を受ける。
その屋根裏に狼の子がただ立って右を向いて、おそらく母子の姿を見ている。
空間的なつながりは全く無視されている。
つまり母子のいる空間と狼の子のいる空間はそれぞれがどう関係し・繋がっているのか、という整合性はまったく無視されているのだ。
母子と狼の子はカメラの表面にのみ起きている、二重露光でつながった関係性だけで保証されて、見つめ合っていることになる。
(その8へつづく)
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